女は怖いか――怖い。本書を読んでそう感じた。

 柴田哲孝は、ノンフィクション『下山事件 最後の証言』で日本推理作家協会賞を「評論その他の部門」で受賞し、翌年には長篇小説『TENGU』で大藪春彦賞を受賞した作家である。そんな彼が、その観察力と構成力、描写力を駆使し、たっぷりと奇想を織り込み、なおかつ徹底的に無駄を削ぎ落として完成させた六つの短篇を収録したのが、この『怖い女の話』だ。著者はこれまで、強い女性や健気な女性、しなやかな女性など、様々な女性を小説に登場させてきたが、今回は女性の怖さに狙いを絞った。その効果は、絶大だった。

 例えば、だ。

 自分に自信を持てない女性がいる。十五歳年上の夫と結婚して新婚三ヶ月になる真理子だ。彼女は、何故夫が自分を選んでくれたのかと、漠然と不安を抱き続けている。そんな彼女のもとに一通の手紙が届いた。長い手紙だった。その手紙は、彼女がそれまで知らなかった夫の過去について、女性との関係やさらなる秘密を含め、克明に記していた。手紙を読み終えた真理子は……その先で、女の怖さが明らかになる。実に意外で、衝撃的なかたちで。

 こんな短篇もある。

 新婚一年目で仲のよい夫婦の日常に、いささか気持ちの悪い出来事が割り込んできていた。マンションのゴミ集積所において、この夫婦のものだけを狙ったかのように、ゴミ袋が荒らされ続けているのだ。夫はあまり気にしない様子であったが、妻は気になって仕方がなかった。そしてその妻の不安が的中するかのように、不気味な出来事はエスカレートしていく……。展開が怖いうえに、最後の一行で心地悪さが倍増するように仕立てられた絶品だ。

 その他の四篇も、それぞれ独自の味わいで女性の怖さを語り、展開もそれぞれに異なっていて、第一話から第六話まで読者を飽きさせない。さすがにベテラン作家の技だ。しかも、本を読み終えて残るのは怖さだけではない。“怖い女”として描かれる一人ひとりの生々しさが心に残るのだ。彼女たちは作り物ではなく、たしかな存在感で作中に生きている。それが心に残り、そして怖さを募らせる。

 一夜に一話ずつ読むのでもよい。全篇を一夜に読むのでもよい。生々しい女たちの怖さを、是非とも堪能して戴きたい。我が身を振り返りつつ――かどうかは、御自身の判断に委ねよう。