監察官室に戻ると佐伯の姿はなかった。時刻は午後二時を過ぎている。本部長会見に同席している時間か。

 自席に戻り、県警職員照会データベースにログインし関下の経歴を呼び出した。

 関下は現在二十八歳。大学卒業後、県警に任用されている。警察学校卒業後は神無中央署四橋よつばし交番に配属。一年で神無南署坂下交番に異動し、更に一年後に神無中央署谷町交番へ異動している。交番勤務の異動は通常二、三年ごとだ。一年での異動が続くのは異例だ。二年間同じ交番で勤務したのは谷町交番が初めてで、今年四月に神無駅交番に配属された。

 賞罰は署長賞が一度。これは警察学校時代の現場実習で自転車窃盗犯を逮捕した時に授与されたもので、ご祝儀のようなものだ。

 次に人事評価のページを開いた。通常は自分の部下の分のみ閲覧可能だが、私は立場上本部長以外全ての職員の人事評価を見ることができる。これは県警内でもごく一部の人間のみに与えられた権限だ。

 私は関下の警察学校時代の成績に注目した。武則に向けた言葉から、警察学校の成績へのこだわりを感じたのだ。

 警察学校入校後、半年間の訓練期間は初任科と呼ばれ、試験も二度行われる。そこでの成績は、卒業後の配属先選考だけでなく、警察官を続ける限り一生ついて回る。

 刑法や刑事訴訟法などの学科の成績はトップ。一方で柔道や逮捕術などの術科の成績は最下位だ。

 勤務成績評価欄を見る。評価は、大きく分けて倫理、知識・技術、コミュニケーション、業務遂行の四項目で五段階評価だ。目を引くのはコミュニケーションの項目で、評価は最低点のEを付けられている。知識・技術の評価がDなのは学科の成績トップよりも術科の成績の悪さに重きを置いた結果だろう。

 総合評価は二十五人中十八位。

 交番勤務の評価も同じ傾向だ。一年という短期間での異動が続いたのも、勤務評価が影響しているのだろう。

 勉強はできるが周囲との関係を築くのが苦手な人間。勤務評価からそんな人物像がうかがえる。

 警察学校卒業から五年。何が彼に凶器を握らせたのか。

 父親を呼べ。関下はそう要求した。関下の父親も警察官だった。親子の確執が事件の背景にあるとすれば他人事とは思えない。

 一瞬、武則の人事評価を見たい欲求にかられ、すぐにデータベースからログアウトした。通信簿とはわけが違う。親に見せるものでも、勝手に見ていいものでもない。

 警察学校の卒業式。首席で卒業証書を授与され、卒業生代表で答辞を述べる姿を見た。それで十分だ。

 佐伯が監察官室に戻ってきた。ドアを閉める音が荒い。佐伯は自分の椅子に腰を下ろすと、背もたれに深く身を沈めた。

 私は報告のため、佐伯の前に立った。

「勝手な行動をとり、申し訳ございませんでした」

「息子が無事で何よりだ」佐伯が暗い目で私を見上げて言った。

「お気遣いありがとうございます」

「最悪の事態になっていれば、とばされる首の数が倍以上になる」

 佐伯が吐き捨てた。不愉快な言葉だが、あながち冗談でもない。

 私は現段階の情報を佐伯に報告した。

「関下は黙秘している」報告を聞き終えた佐伯が言った。

「どこで知恵を付けたのか分からんが、全て法廷で話すと言っている。刑事部長が本部長に発破をかけられていたから助け船を出した。うちはうちで動く。情報は提供する。本部長も承諾した」

 法廷で何を話すつもりなのか。休職していた事を考えれば、その背景を暴露する可能性は十分考えられる。

「法廷で余計なことを喋らせたくない、と言えば白峯は納得しないだろうな」

 佐伯が口元をゆがめた。

「仮に県警にとって好ましくない話でも事実であるなら受け入れ、改めるべきは改めなければならないでしょう。しかし、事実と異なる証言で無用な混乱を招くのは避けるべきです」

「それでいい。まずは事実関係を明らかにすることだ。ただし捜査一課の顔も立てなきゃならん。表立って動くのは白峯だけだ。下調べは部下を使え。刑事部との連携が必要な場合、自分の判断で動いていい」

「承知しました」

 席に戻り、部下の警部二人に関下の経歴を伝え、警察学校の同期、これまでの職場の上司、同僚のリスト作りを頼んだ。県警に寄せられた苦情に関下の名がないか調べることも頼む。ふと思いついて過去二十年分調べるよう付け加えた。

 リストができたら捜査一課にも共有する。その前に直接会って話を聞きたい人間がいた。

 監察官室を出て、階段で一階に降りた。ロビーの壁に寄りかかっていた男が姿勢を正し、頭を下げた。

「お待ちしていました」

 申橋がぎこちない笑みを浮かべながら近づいてきた。

「まだ提供できる情報はないが」

 私の言葉に申橋は真顔になった。

「すでにご存じかもしれませんが、関下は黙秘しています。口を開かせるネタが欲しいんですよ。白峯さんが動くなら、私も同行させてください。なりふり構っていられません」

「車、出してもらえるか」

 私が言うと申橋は拍子抜けしたように口をぽかんと開いた。

「そんなあっさり、良いんですか」

「君の立場は理解しているつもりだ」

 私に張り付くよう木崎に指示をされたのだろう。元々情報は提供するつもりだったのだ。無駄なやり取りに時間を費やしたくない。

「まずは警察学校だ。関下の担当教官に話を聞く」

 

「関下の件は私も驚きました。初めて受け持った教場の生徒でしたので特に印象に残っています」

 警察学校の応接室で教官の上岡かみおかと向かい合った。

 上岡は四十代半ばの警部補で、地域実務の授業を受け持ち、五年前は関下の教場の担当教官だった。関下の警察学校での一次評価は彼が行っている。

「印象に残る生徒だったのか」

「学科については勉強熱心な生徒でした。休日もあまり外出せず、自習に励んでいて、熱心過ぎると思っていました。悪いことではありませんが、勉強以外にも体力を付けたり、同期と協力するよう何度も指導しました。しかし、試験でいい成績をとることしか頭になく、卒業まで改善は見られませんでした」

 教え子が事件を起こしたことに責任を感じているのか、上岡は終始悲痛な表情を浮かべている。

「同期とトラブルを起こしたことは?」

「私が把握している限りではありません。周りの学生たちも関下とは距離を置いていたようです。当時、場長を務めていた生徒が気にかけてフォローしていましたが、関下の方が壁を作っていましたので」

 場長とはいわば学級委員のような存在で、同期のまとめ役だ。

「休日に外出することが少なかったと言ったが、実家にもあまり帰っていなかったということか」

「そのようです。帰りたくなかったのかもしれませんが」

 引っかかる言い方だった。

「関下の父親を知っているのか」

「入学式と卒業式で会っています。通常、親御さんとは現職の方であっても挨拶を交わす程度です。ですが、関下の父親には随分とその、長い時間つかまりまして」

 言いにくい話をするために言葉を選んでいるようだった。

「これは刑事事件の捜査です。オブラートに包んでしゃべる必要はありません」

 私が思ったことを申橋がいくらか強い調子で代弁してくれた。

「分かりました。まず入学式の時ですが、いかに自分が教育に力を入れて、関下がそれに応えたかって話をクドクドと繰り返されました。私の印象ですが、息子自慢というより、自分のことを誇っているように見えましたね」

 不愉快な思い出だったのか、上岡の口調が早口になった。

「卒業式の時はもっとひどかった。なぜ息子が首席じゃないんだって食ってかかられました。先程お話しした通り、学科の成績だけよくても他の成績が良くありませんでしたから」

「モンスターペアレントってやつですか」

 申橋の言葉に、上岡は力なく首を振った。

「そこまでは言いませんが、近いものはありました」

 私は上岡に礼を言い、話を切り上げた。最後に関下の同期で場長だった男の名を聞く。

いわといって、現在は南署の生活安全課にいるはずです。今でも年賀状で近況報告をしてくれます」

 上岡は答えた後で、関下からはもらったことがありませんが、とつぶやいた。

 警察学校の校舎を出ると、申橋が本部に電話をかけると言うので先に車に乗った。待つ間もなく助手席のドアが叩かれた。申橋の険しい表情に、私は車から降りた。

「関下の父親が遺体で発見されました」

 

 

 関下の父、義正の遺体は大塚市の自宅から車で二十分ほどの雑木林で発見された。しゆ、つまり首吊りだ。

「説得を拒否されてから連絡が取れず、正直こうなることを懸念していました」

 大塚署が自宅周辺を捜索、遺体発見に至った。関下の母親は三年前に病死しており、義正は一人暮らしだった。

「事件、自殺両面で捜査を始めていますが、十中八九自殺でしょうね」

 神無南署に向かう車中、申橋が遺体発見の状況を説明してくれた。

「遺書はまだ見つかっていませんが、息子が起こした事件に責任を感じたってところでしょうか」

「責任を感じているのなら説得を拒否したことが腑に落ちないな」

「上岡教官の証言だと息子に干渉し過ぎる親のようでしたね」

 一瞬、申橋の視線が私に向けられた。あなたの家はどうですか。問うような視線だった。

 おそらく真逆だ。武則と向き合う時間は多くなかった。入学式や卒業式と名のつく行事に参加したのも警察学校のものが初めてだ。それを武則がどう感じているかは分からない。

 なぜ警察官の道を選んだのか。それすらまだ聞けていない。

 南署には二十分程で着き、会議室に通された。

「生活安全課の岩城です」

 細身のスーツを隙なく着こなした岩城が立ち上がって私たちを迎えた。警察学校を首席で卒業し、すでに巡査部長に昇任している。

「同期が事件を起こして動揺もあるかと思うが、警察学校時代の関下の話を聞かせてもらいたい。君から見て、どういう人物だった」

 事前に訪問の目的は伝えてある。岩城は淀みなく答えた。

「正直、付き合いやすい男ではありませんでした。関下自身も、周囲の人間と関わることを避けていましたし」

「具体的にはどういう点が付き合いにくかったんだ」

「学科の成績が全てと考えていたようで、土日もほとんど外出せず自習をしていました。何度か食事に誘ったこともありましたが、時間が惜しいと毎回断られました」

 上岡の証言と一致している。

「同期とのトラブルはなかったのか」

「もっと周りのことを考えて行動するよう諭して、キレられたことがあります。勉強の邪魔をして足を引っ張るつもりかと。実際は集団行動で同期の足を引っ張っていたのは関下の方で、自分でも分かっていたはずですが。それ以降、関下との間により深い溝ができました。卒業後の同期会にも一度も出席していません」

 声はかけていました、といくらか慌てたように付け加えた。

「関下から父親について聞いたことはあるか」

 岩城が束の間考え込んだ。

「本人から聞いたことはありませんが、中央署に所属していた時、地域課の係長が言っていました。親が親なら息子も息子だと。良い意味で言ったわけではないと思いますが、詳しいことは分かりません」

 申橋がその係長の名を聞いた。捜査一課で事情を聞くという意思表示だろう。張り合うつもりはない。

 南署を出ると日が沈んでいた。

 私と申橋はお互い電話をかけるために距離をとった。

 電話を終えたのは私が先で、申橋を待つ間、もう一件電話をかけようか迷った。武則は寮に帰った時間だろうか。傷の具合、気持ちの整理。話すことはいくらでもある。

 スマホ片手に迷っていると、電話を終えた申橋が近づいてきた。

 なぜか後ろめたい気分になりスマホをしまった。

 本部に戻る車中で、関下の同期や、これまでの職場の関係者のリストが出来上がったことを伝えた。捜査一課に提供するつもりだ。

 申橋もこれまでの捜査で分かったことを話してくれた。リストの対価としては話し過ぎに思えた。

「いいのか?」私の問いに申橋は肩をすくめた。

「情報は共有してこそ生きる。前任の管理官殿の言葉です」

 覚えていたのか。確かに私の言葉だ。

 刑事の中には自分で掴んだ情報を抱え込みたがる者もいる。個人だけではない。班や係、本部と所轄。競争意識が悪いわけではないが、情報の伝達が遅れることで捜査の大事な局面を知らぬ間に逃してしまうこともある。厄介なのは、情報が共有されないゆえにそれに気づくことが遅れることだ。

「前任者の言葉よりも今の管理官の指示に従うべきだな」

「今の管理官の指示に逆らっているわけじゃありませんよ。前任者から学ばせてもらったことを生かしているだけです」

 ルームミラーの中で、申橋が片頬を上げて笑った。

 

 午後九時過ぎ。神無駅に向かう人の流れはまだ途切れていない。周囲は平穏を取り戻し、昼間、この場所で起きた事件を思い起こさせるものはない。交番をスマホで撮影している若者がいた。ニュースで見たのだろう。彼が立ち去るのを待って、交番の扉を開けた。

 奥の席に座る滝沢が立ち上がり、休憩室につながるドアを指さした。私はドアに向かいながら交番の床に視線を走らせた。武則の血痕が残っているわけではない。それでも、事件があった場所を踏んでしまうことにためらいを感じた。

 休憩室の畳の上にあぐらをかき、ローテーブルをはさんで滝沢と向かい合った。顔は良く日に焼けているが、額の上部が白い。制帽の跡だろう。

「疲れているんじゃないのか」

 私は途中で買ったペットボトルのお茶を差し出しながら言った。

 滝沢は無言でペットボトルを受け取った。喉が渇いていたのか、すぐにキャップを開け口に運んだ。

 半分ほど一気に飲み干すと、深く息を吐いた。

 私は滝沢が話し始めるのを待った。

「詫びなければならないことがある」

 何を、とは聞かなかった。

 関下は武則の柔道大会での活躍や警察学校を首席で卒業したことを知っていた。武則が柔道大会の団体戦で三人抜きをし、警察学校の優勝に貢献したのは関下が休職する前の出来事だ。知っていてもおかしくない。

 しかし、警察学校を首席で卒業することが確定したのは卒業の二週間前で、関下の休職後だ。公表されるものではなく、すでに休職していた関下が噂話程度であっても知ることはできないはずだ。

 誰かが、関下の耳に入れなければ。

「関下に息子さんの話をしたのは俺だ」

 滝沢が顔を上げ、言った。充血した目が真っすぐに私を見ている。

「休職の申し出があった後、一度だけ関下と会った。署での面談は拒否されたから、あいつのアパートを訪ねた。一応、部屋に入れてくれたが驚くほど何もない部屋だったな。机とノートパソコンくらいでテレビもなかった。小さい本棚があったが、昇任試験のテキストばかりで趣味につながるようなものはなかった」

「昇任試験の勉強は熱心にしていたようだな」

「ああ、事故処理なんかで残業しなければならない時はあからさまに不服そうな顔をしていた。勉強する時間が減ると言ってな。去年、試験に落ちてから一層のめりこむようになっていた」

 警察学校時代から、関下は変わっていないようだ。

「普段、関下から相談を受けることもなかったし、こちらから悩みがないか聞いても話にのってこなかった。だからまずは悩みではなく、何が不満なのかを聞き出そうとした。変にプライドが高い奴だから、悩みを口にすることに抵抗があるんじゃないかと思ってな」

 その点、不満であれば自分ではなく、周囲を悪者にすることで思いのたけを語ることができる。

「自分が評価されないことへの不満をしきりに口にしていた。巡査部長昇任試験に落ちたことすら不当な結果だと言っていた」

「他には」

「署長賞への推薦を却下されたことも根に持っていた。何度か、自転車泥棒を検挙していたが、そのたび署長賞へ推薦して欲しいと言われてな。それ位で推薦できるわけがないが、あまりにしつこく言われて、一度課長に申請書を提出したことがある。もちろん却下されたし、正気かって呆れられた」

 八月末のことだという。申請書は直属の上司、課長、署長の承認後、監察官室表彰係に提出され、そこで最終判断が下される。

「自己中心的な人間に思えるな」

「勤務態度を注意しても素直に聞くことはなかった。自分が悪いと感じないんだろうな。やたらと自分ばかり注意するのはパワハラだと言われたよ」

 滝沢が瞼を閉じた。目じりに深いしわが刻まれる。

「俺は二十代のころ関下の父親と同じ交番に配属されたことがある。その時は随分ひどい扱いを受けた。蹴りを入れられたこともある。別に恨んでもいないが、関下にパワハラだと言われ、つい言ってしまったんだ。お前の父親に受けた扱いはパワハラなんてもんじゃなかったぞってな。そして、息子さんのことも話してしまった。警察学校首席卒業の優秀な新人が入ってくる。お前の戻る場所なんてなくなるぞ、と」

 すまん、と滝沢が頭を下げた。

「俺の不用意な言葉が事件の引き金になったかもしれない。結果、息子さんを危険な目に遭わせてしまった」

 私は滝沢の肩に手を置いた。

「関下に会った日にちは?」

「九月二十四日だ」

「関下は九月二十二日にネットショッピングで凶器の包丁を注文し、二十五日に配達されている。滝沢が会う前に関下は事件を計画していたようだ。もし、配達が一日早ければ、滝沢が被害を受けていたかもしれない」

 申橋が明かしてくれた情報だ。

「本当か」滝沢の目が大きく見開かれた。

「その時の関下の反応はどうだったんだ」

「顔を引きつらせていた。その顔を見て、言い過ぎたかと思った。お互い、少し頭を冷やした方が良いと思ってその日は引き上げた。白峯に連絡したのはその夜だ」

「私もすぐに相談にのれなくてすまなかった。息子の上司になる男だと思うとちょっと身構えてしまってな」

「気を使い過ぎだ。昔からな。関下のような部下の扱い方にちょっとアドバイスをもらいたかっただけだ。色々勉強しているのは知っていたからな」

 滝沢の口元が何かをこらえるように歪んだ。

「今までの話、申橋たちには?」

 私の問いに滝沢が首を振り、もう一度すまん、と言った。

「話すなら白峯に、そう思ってしまった。処分は覚悟の上だ」

 自分の言葉が事件の引き金になったかもしれない。その葛藤があったにしろ、責任逃れをする男ではない。だが、証言をする時と相手を見誤った。それを見過ごすことはできない。

「申橋に連絡をさせてもらう」

「もちろんだ。きちんと証言する」

 私は申橋に電話をかけた。申橋はまだ本部にいて、滝沢の話を伝えるとすぐに部下を向かわせると言った。

「白峯の息子と仕事が出来るって楽しみにしていたんだがな……」

 滝沢がつぶやいた。

 私もお前なら安心して息子を預けられると思っていた。

 口には出さなかった。

 滝沢に聞くべきことはまだある。

「関下の休職届は滝沢も読んだのか」

「いや、署に届いて、課長から内容を説明されただけだ。指導力不足だと言われたよ。ただ、パワハラについては心当たりがないことばかりだった。もっとも、俺に自覚がなかっただけで、そう受け取られても仕方ない行動をとっていたかもしれないが」

 気持ちを切り替えたのか、滝沢はさばさばとした口調で答えた。

「関下が駅交番に配属された時の第一印象はどうだった」

「正直、なぜ、ここに配属されたのか不思議だった」

 駅交番の忙しさは県内でも一、二を争う。なぜ、関下が配属されたのか。関下の人物像から、いくらか違和感を感じる。

 もっと、あいつと本気で向き合えばよかった。滝沢がつぶやいた。

 

(つづく)