彼女が『美人薄命』と出会ったのは、双葉社の営業部でまだ働く以前のこと。
お世話になっていた書店員さんに「双葉社でいちばん好きな作品はなんですか?」と尋ねた際に紹介され、その一冊がもたらした衝撃は今も忘れられないという。
入社してから、彼女は『美人薄命』の魅力を世に広めたいと意気込んだが、当時は在庫がなかった。それでもあきらめずにいた彼女の熱い思いが結実し、この度新装版として店頭に並ぶこととなった。本記事ではぜひ彼女の声をお届けしたい。
『美人薄命』(深水黎一郎)あらすじ
孤独に暮らす老婆と出会った、大学生の総司。家族を失い、片方の目の視力を失い、貧しい生活を送る老婆は、将来を約束していた人と死に別れる前日のことを語り始める。残酷な運命によって引き裂かれた男との話には、総司の人生をも変える、ある秘密が隠されていた。切なさ溢れる衝撃の結末が待ち受ける、長編ミステリー。
こんなにも「まだ終わってほしくない」と名残惜しくなるミステリーは初めてでした。ページをめくるたびに、胸が温かくなりほっこりする1冊です!
ゼミのレポートのため、嫌々ながら弁当配達のボランティアを引き受けた大学生・総司と、カエ婆ちゃんとのテンポの良い会話は笑いにあふれていて、彼が少しずつ成長していく姿が丁寧に描かれていきます。
戦時中の記憶や片目を失った過去を語るシーンは深く考えさせられるのですが、注目すべきポイントは総司の前でみせるカエ婆ちゃんのユーモア溢れるお茶目さと可愛らしさなんです(笑)。
可愛いお婆ちゃんにほっこり笑い、ふとした瞬間に切なさで涙ぐみ……それだけで終わらないのが、この物語の凄さです。終盤に仕掛けられたトリックは見事の一言。完全に油断していたところに突きつけられる真実に、「してやられた!」と唸らされること間違いありません。
本作の素晴らしさを教えてくれた書店員さんに、新装版はどんなイメージがいいか尋ねたところ「ハートフルなストーリーと、どんでん返しの鮮やかさ、騙されても爽やかな気分になれるラストがこの本の売りだと思うので、そういう装丁だとファンとしては嬉しいですね」とお話されていて、候補にあがったのがイラストレーターの杉田比呂美さんでした。

実は杉田さんのお名前は、担当編集が新装版を検討していた段階でもすでに挙がっていたそう。
「『美人薄命』はミステリーであると同時に、ウダウダしていた一人の大学生がきっちり自分の人生と向き合うようになるという青春小説です。ならば、もともとの「ザ・ミステリー」の装丁とは違ったアプローチをしたい! と思いデザインをお願いしたのは、長い時間ともに仕事をしているブックウォールの村山百合子さん。私が絶大なる信頼を寄せているデザイナーです。その村山さんもまったく私と同じ感想ということで、打ち合わせでがっちり握手。そこで「カバーはイラストがいいですよね」「やわらかめ」「でもミステリーテイストも必要」などなど侃侃諤諤……。という流れで出てきたのが杉田さんでした」(担当編集・談)
完成した新装版は元のイラストから大きく雰囲気が変わり、頭の中で思い描いていたカエ婆ちゃんよりも若々しさを感じ、また普段本をあまり読まないような方も手に取りやすい印象に仕上がっています。
本作の魅力を知り尽くした4人全員が杉田比呂美さんのイラストを思い浮かべた奇跡! ぜひこの機会にお手に取っていただけましたら幸いです。読んだ人はみんな、きっとカエ婆ちゃんの虜になるはずです。