世界の覇権を握ろうとしている中国が密かに進めていた計画──それは遺伝子操作で“天才”を作ることだった。しかも、秘密裏に生み出されたデザイナーベビーたちはスパイとして各国に送り込まれていた。そんな彼らが中国に反旗を翻し、日本に亡命。日、米、中が暗闘を繰り広げる事態に! そんな手に汗握る設定の国際諜報&ハードアクション大作、穂波了氏の『裏切りのギフト』がついに文庫化された。

 極上のエンターテインメント小説にして「命の重さ」を問いかける結末とはなにか。

 

「小説推理」2022年9月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと帯で『裏切りのギフト』の読みどころをご紹介します。

 

 

裏切りのギフト

 

 

■『裏切りのギフト』穂波了  /細谷正充 [評]

 

デザイナーベビーの戦いが始まった。舞台となった日本で、各国の思惑が入り乱れる。穂波了が放つ、ハイブリッド・エンターテインメント。これは凄い!

 

『月の落とし子』や、それに続く『売国のテロル』で、ハイブリッド・エンターテインメントの書き手として注目される穂波了が、新作を上梓した。今回は、デザイナーベビーがテーマだ。このアイデアを中心に、とんでもない物語を創り上げているのだ。

 

 中国政府は三十年前から、密かにIQ180以上のデザイナーベビーを作り、各国に浸透させていた。しかし政局の変化により、彼らは処分されることになる。祖国に裏切られたデザイナーベビーのユーリ・メレフは、同じ境遇のクマリ・クラナとダルトン・フィッシャーと共に、自分たちの存在と力を世界に見せつけた。その後、三人は日本に潜入。ある目的のために動き始める。

 

 一方、特殊急襲部隊SATの班長の伊吹薪彦は、部下の藤崎塔子と共に、警視庁警備局の眉村次郎から特別な任務を命じられる。早くからCIAに寝返った、デサイナーベビーのミランダ・バートランドと一緒に、ユーリたちの件を調査せよというのだ。だが各国の思惑が錯綜する中、とんでもない惨劇が起こり、事態は予想外の方向に暴走していく。

 

 有能だが独断専行しがちな伊吹薪彦が主人公的な立場にいるが、本書は群像ドラマといっていいだろう。綿密な行動をするユーリたち。彼らを追う伊吹たち。そこに、事件に巻き込まれた観光庁職員の佐藤阿世や、ユーリの教官だった申伯賛が絡まる。また、伊吹の息子の八雲の日常も挿入されており、メインの物語にどうかかわってくるのかドキドキさせてくれるのだ。

 

 しかも途中の惨劇を経て、ストーリーのギアが上がる。事態は混迷を極めたまま、千葉県某所に移動。そこに主要人物が集まり、激しいアクションを繰り広げるのだ。これが凄い迫力。冒険小説やアクション小説の好きな人に、ぜひとも読んでほしいのである。

 

 だが本書の魅力は、それだけではない。惨劇を引き起こした犯人の正体を、ミランダが推理する場面は、本格ミステリーの味わいだ。さらに終盤のアクションの最中にも、意外な事実が判明。一ヶ所、引っ掛かりを覚えた部分があったが、そういう意味だったのか。ミステリーの好きな人も、必読なのである。そして読了したら、さまざまな要素をまとめ上げる、作者の豪腕に感心してほしい。穂波了、やってくれる。