第46回小説推理新人賞を受賞した朝水想さんのデビュー作がついに刊行! 本作は神社に住む「稲荷神」が探偵役となり、人間の奇妙な願いの真意を解き明かす異色のハートフルミステリー。
「小説推理」2026年2月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『お稲荷さまの謎解き帖』の読みどころをご紹介します。


■『お稲荷さまの謎解き帖』朝水想 /大矢博子 [評]
参拝者の願いを叶えるのが稲荷神の仕事。なのに、どうして変な願い事ばかりなの!?
天界を統べる大神様から人間の世に遣わされた稲荷神。神としてはまだ子どもで、天界が選んだ「誉人」の願いを百人分叶えれば、晴れて神として天界へ戻れることになっている。だが三百年が経っても叶えられた願いはたったの五つ。眷属の狐は苛立って、落ちこぼれ稲荷神の尻を叩くが……。
人間の機微や社会のルールに疎い稲荷神が、あの手この手で誉人の願いを叶えていく連作である。神だけあって何にでも化けられたり、一夜に一人という条件付きではあるが思い通りに人を操ったりできるというチート能力があるので、願いを叶えるのは極めて簡単そうに見える。が、そう上手くはいかない。
なぜなら選ばれた人々の願いが変なのだ。「私が殺されますように」「幽霊に会えますように」「あの子が選ばれませんように」「あの人を騙せますように」などなど。待って、それどういう意味? 願いの真意がわからなければ叶えようがない。かくして稲荷神は人間に化けて彼らに近づき、本心を探ることになる。
この設定がまずミステリとしてとても興味深い。そういう意味だったのか、そこに真意があったのかという謎解きの面白さに加え、どうやってその願いを叶えるのかという展開の面白さに惹きつけられた。
だが最も大事なのは、この連作で描かれる謎が「人は心の底では何を考えているのか」ということだ。なぜそれを隠しておきたいのか。なぜそれを知りたいのか。そこに人間模様が浮かび上がる。離れて暮らす人を案じる心。大事な人に幸せになってほしいという思い。そんな様々な思いに向き合うのが、人の機微に疎い稲荷神というのがポイント。誰かのための思いに触れることで、はじめは人間の考えが理解できなかった稲荷神が少しずつ変わっていく様子がいい。これは神様の成長物語でもあるのだ。
人の願いを叶えるのは神様なのか、それとも人間自身なのか? ファンタジックでユーモラスな中に、強い芯の通った期待大のデビュー作である。