こんな暴走系小説見たことない!? 中学の入学式で超絶イケメン男子にひとめ惚れしたモブキャラ女子が、「推し」と「恋」の違いに翻弄されながらも妄想を爆発させて突き進む!
著者の森美樹さんと同じく「R-18文学賞」出身作家である、南綾子さんのレビューで『推してダメなら押したおせ』の読みどころをご紹介します。


『推してダメなら押したおせ』森 美樹/南 綾子 [評]
わたしにはもうこの手の暴走系小説は書けない。本書は書き手と処女の中学生が完全に一体化している、とんでもない小説である。森さんってすごいなと心から感嘆した。
好きな人といざ行為をするとなったときに、相手に幻滅されないよう、あるいはめんどくさがられないよう、事前にどこかで処女を捨てておくべきではないか。そんなような趣旨の相談を、わたしはかつて受けたことがある。しかも一人じゃない。三人ぐらいいた。
いずれのときもわたしは処女でなかったので、「そんなことをする必要はない」と相手をいさめたと思う。しかし実のところ、わたし自身が処女だった頃も、いつその機会が訪れてもいいように、自分で膜的なアレを破っておいたほうがいいのではと真剣に考えたことがあった。そしてブツに一番形状が近そうな制汗スプレーを自分で挿入してみようかと大真面目に検討した(はっきり覚えていないけど、多分やらなかった)。
要するに、処女の思考というのは基本、わけがわからない。
しかし、大半の処女はそんな自分の意味不明きわまる部分を人目にさらさない。セックス? なんですかそれは新種の靴下ですか? みたいな顔で甘いものを食べたり飲んだりしている。でも内心では、好きな人の性器をもし舐めることになった場合に備えて、何か棒状のもので練習をしておくべきだろうかなどと悩んでいる。その苦悩は、ほんの近しい友人にだけ打ち明けるか、あるいは日記に書くか。
本書はその日記に物語の要素をくわえて丸々一冊分描き切った、とんでもない小説である。処女の思考、妄想はわけがわからない、だからこそ超絶面白い。主人公の富子は中学の入学式で同級生の奏羽に一目ぼれし、彼の一番の女になるためにそこから怒涛の旅に出る。彼女の行動の動機のすべてが意味不明なのだが、そのわけのわからなさが赤裸々すぎてどこを読んでもおかしい。それにしても、わたしは処女からなにもかも遠くなりにけりすぎて、この手の暴走系小説はもう書けなくなってしまった。しかし本書は書き手と処女の中学生が完全に一体化している。でなければこんなもの書けない。森さんってすごいなと心から感嘆した。