御三家水戸藩に燻る継嗣問題。次期藩主の座を巡って藩内外で様々な思惑が交錯し、魑魅魍魎が跋扈する。一子相伝〈無双流〉の遣い手・黒木兵庫が水戸家に忍び寄る敵を迎え討つ、期待の新シリーズが遂にスタートした。

 書評家・細谷正充さんのレビューで『新・御刀番 黒木兵庫 無双流仕置剣』の読みどころをご紹介します。

 

新・御刀番 黒木兵庫 無双流仕置剣

 

■『新・御刀番 黒木兵庫 無双流仕置剣』藤井邦夫  / 細谷正充 [評]

 

水戸藩の御刀番にして、一子相伝の無双流の遣い手・黒木兵庫が帰ってきた。ついにシリーズ化された、痛快チャンバラ小説は、興奮必至の面白さだ。

 

 「期待の新シリーズ、ここに開幕!」と、本の帯に書かれているが、主人公の黒木兵庫が登場するのは、本書が初めてではない。エピソード0となる『無双流逃亡剣 御刀番 黒木兵庫』があるのだ。まず、こちらの内容を紹介しよう。

 水戸藩主の徳川斉脩と側室のお眉の方の間に生まれ、五歳になる虎松の命が、正室の峰姫に狙われた。徳川十一代将軍家斉の娘の峰姫は驕慢な性格であり、いつか自分が産むであろう子供以外が、次期藩主になることが許せないのだ。藩の御刀番で一子相伝の無双流の遣い手の兵庫は、峰姫に雇われた裏柳生の襲撃を受けながら、事態解決のために虎松を護り、江戸を目指すのだった。次々と襲いくる刺客を、兵庫が戦場用の刀の胴田貫で斬り伏せていく。冒頭からラストまで、主人公の豪剣が楽しめる、痛快チャンバラ小説だったのだ。

 それが装いも新たに、新シリーズとして帰ってきたのだからたまらない。前作の騒動から七年。江戸の水戸藩邸で、なにやら不審な動きがあると連絡を受けた兵庫。黒木家の老下男の孫で、兵庫の父の最後の剣の弟子である新八を連れて、国許から江戸を目指した。

 そして江戸の下屋敷で兵庫は、久しぶりに京之介(虎松)とお眉の方と再会。話を聞くと、老中の水野忠成が藩主をしている沼津藩の家老で、水野の懐刀である土方縫殿助が、京之介を訪ねてきたとのこと。土方は、かつて峰姫を水戸藩の正室に押し込んだ策謀家である。今回も、何事か企んでいることは間違いない。さっそく調査を始めた兵庫と新八だが、伊賀の忍びに襲われるのだった。

 本書は全三話で構成されているが、中篇の長さを持つ冒頭の「老猿始末」がメインといっていいだろう。土方の目的が見えないまま兵庫は、伊賀の忍びとの死闘を繰り広げることになる。やがて明らかになる陰謀はえげつないものであり、兵庫の怒りが爆発。ここからの主人公の行動がぶっ飛んでいる。でも、とことん痛快だ。読んでいて、スカッとした気持ちになれるのである。

 さて、この一件は落着したが、水戸藩の後継者問題は燻ぶったままであり、伊賀の忍びとの確執も生まれた。それを踏まえて、続く「丑の時参り」「伊賀の朧」では、新たな騒動が発生。やはり痛快な兵庫のチャンバラを堪能しながら、錯綜するストーリー展開に夢中になった。抜群のスタートダッシュを決めた、新シリーズの今後がどうなるのか。次巻が楽しみでならないのである。