新市長の無茶ぶりから始まったマラソン大会の起ち上げ! 素人チームが奮闘する青春お仕事小説『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』が注目を集めている。難航するコース設定や反対派住民の説得、資金不足や警察との折衝といった現実的な壁にぶつかりながらも、ユーモアと情熱で突き進む主人公たちの姿にきっと元気をもらえるはず。
市民ランナーでラジオパーソナリティーの田島悠紀子さんのレビューで『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』の読みどころをご紹介します。
■『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』蓮見恭子 /田島悠紀子 [評]
新市長の無茶ぶりからマラソン大会を起ち上げることになった裏方たちのドタバタ青春お仕事小説。誰もが納得するウィンウィンな大会とは。
私はようやく目標の5時間切り(ネットタイムで4時間47分)ができた平凡な市民ランナーだ。でも走ることもマラソン大会も好きだ。初めてフルマラソンに出たのは6年前。40歳を機に何か新しいことにチャレンジしたいと思ったのだ。その後もマイペースに走り続け、これまで出た大会はすべて完走している。
マラソンは孤独なスポーツだと思っていた。でも違った。走っている間、ずっと沿道から声援を送られ、応援されているのだ。そしてそれが力になる。本当に力が湧いてくる。だからゴールした後はいつもコースに向かって一礼している。感謝の気持ちがあふれて頭を下げずにはいられなくなるのだ。そんな私だから、本書を読了後も本に向かって深く一礼した。心からの労いを込めて。
『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』は、マラソン大会の開催を目指して奮闘する裏方たちの物語だ。古墳の町として知られる土師市の新市長が町おこしのためにマラソン大会を開催することを思いつき、前職でマラソン大会の運営に携わっていた市役所職員の倉内拓也に丸投げする。無茶ぶりされた拓也は大会準備チームを立ち上げ、開催に向けて動き出す。ところがチームのメンバーは未経験者ばかりだし、コース設定も難航。そのうえ反対派の住民たちの対応にも追われ、てんてこ舞いに……。
だが、ウィンウィンの関係を築くことをポリシーにしている拓也は、それぞれの問題と向き合い、お互いにとってのいい方法を模索していく。そもそも拓也たちが作ろうとしている大会こそ、無茶ぶり市長をはじめ、反対派の住民や地元中小企業を納得させ、ランナーも町の人も満足のいく、みんながウィンウィンの大会なのである。
結局どんな大会を目指すことにしたかは本書を読んでいただくとして、私は一人の市民ランナーとして、この大会に出てみたいと思った。何よりとても楽しそうだし、裏方の皆さんの頑張りも知っているから。と同時にあることに気付いた。大会毎にカラーは違えど各地のマラソン大会も同じ思いで作られているのかもしれないと思ったのだ。拓也たちはどの大会にも存在していると。試しに私が毎年出ている富山マラソンの公式サイトを開いて実行委員会のお礼コメントを読んだら、まるで拓也たちの言葉のようで胸が熱くなった。
本書は登場人物が多い。つまりマラソン大会にはそれだけ多くの人が関わっているということだ。でも実際の大会では彼らの名前が表に出てくることは無いのだろう。本書はそんな裏方たちにスポットを当て、ひとりひとりを丁寧に描いているのがいい。大会には全く関係無いように見えた人たちの意外な活躍も嬉しく、最後まで楽しく読んだ。今後、マラソン完走後の私の一礼は、より深く長くなるに違いない。