シリーズ累計45万部を突破し、映像化もされた大人気ミステリ第3弾! 童話の世界で次々と事件に遭遇する「赤ずきん」の今回の舞台は、アラビアンナイト。魔法のランプを持つアラジンや海を渡るシンドバットと旅をしながら、名探偵・赤ずきんは4つの事件の謎を解決できるのか?
「小説推理」2024年12月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。』の読みどころをご紹介します。
■『赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。』青柳碧人 /日下三蔵 [評]
赤ずきんが探偵役を務める童話ミステリシリーズの第3弾が、ついに登場! アラビアンナイトの世界で起こる難事件の数々の、驚愕の真相とは?
昔ばなしをトリッキーな本格ミステリにする、という趣向で話題を呼んだ『むかしむかしあるところに、死体がありました。』シリーズを「日本篇」とすれば、童話の世界で起こる事件を探偵役の赤ずきんが解決する『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』以下のシリーズは「西洋篇」ということになるだろう。
「小説推理」での連載は、両者が交互に書かれるスタイルで、この『赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。』は西洋篇の第3弾である。
今回は枠物語になっていて、シャハリアールの章ではザザーン朝ペルシャの王、シャハリアール・ザザーンが登場する。妻に裏切られた彼は、女性を憎むあまり、国中の若い娘を宮殿に連行しては、片っ端から殺し始める。
400人目の生贄となった宰相の娘シェヘラザードは、寝室を訪れた王に赤いずきんをかぶった少女が、奇妙な事件を解決する話を、次々と聞かせる。
だが、夜明けとともに話は中断され、続きが気になって仕方ない王は、シェヘラザードを殺すことが出来なくなる。
つまり、有名な「千夜一夜物語」でシェヘラザードが語った物語が、赤ずきんの事件簿になっている、というのがこの本なのである。シャハリアールの章と赤ずきんの章では、文体が書き分けられているのも芸が細かい。
「アラジンと魔法のアリバイ」では、ランプの魔人の能力を使った驚愕のアリバイトリック。「アリババと首吊り盗賊」では、相言葉を知っているはずのアリババの兄が洞窟の中で餓死していた事件の真相。「シンドバッドと三つ子の事件」では、三重の鍵がかかったライオンの檻の中で血まみれの男が死んでいた事件のトリック。
どのエピソードも、童話ならではのファンタジックな設定の中に、事件の謎を解くカギが隠されているのだ。
一つ一つのエピソードが面白く、読者も次第に王様と同じ気分になっていく、という構成が素晴らしい。さらに最終話「アラビアの夜にミステリは尽きず」では、2つの章が意外な形で融合するのだが、その仕掛けも巧みである。アイデア満載の贅沢な連作と言えるだろう。
なお、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は福田雄一監督、橋本環奈主演で映画化され、Netflixで配信された他、たなかのかによるコミカライズも進行中で、メディアミックスの成功例としても注目される。