「あなたの犯罪計画は、どうしてそんなに杜撰なの?」
この決め台詞とともに、前作『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』でミステリ界に衝撃のデビューを果たした赤ずきん。
世界のみんなが知っている童話をベースにした連作本格ミステリの第2弾が、この度ついに文庫化された。
物語の冒頭で赤ずきんは、おじさんにクッキーとワインを届ける途中、「ピノキオの右腕」を拾う。ピノキオは体をばらばらにされていて、赤ずきんはそれらを集める旅に出るが、なんと、殺しの犯人として逮捕されてしまい、自らの無実を証明できなければ、ギロチンの刑にかけられてしまうことに!? はたして赤ずきんは、このピンチを切り抜けられるのか——。
親指姫や白雪姫、三匹の子豚など、世界の童話の主人公が登場する驚き連続の連作ミステリは、そのトリックのユニークさも異彩を放つ。
「小説推理」2022年12月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』の読みどころをご紹介したい。
■『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』青柳碧人 /日下三蔵[評]
名探偵・赤ずきん、ふたたび登場! 童話プラス本格ミステリの趣向と練られたトリックの面白さで話題沸騰の人気シリーズ、待望の最新作!
本格ミステリの魅力の1つに名探偵のキャラクターがあることに異論のある人はいないだろう。多くの作家がお抱えのシリーズ探偵を持っているが、1人か2人の探偵を書き続けるタイプと、次々にキャラクターを生み出すタイプの作家がいる。後者の代表格が都筑道夫で、そのシリーズ探偵は20組を超える。
都筑道夫は、探偵Aに向かない事件を思いついた時は探偵Bを創り、Bに向かない事件を思いついた時は探偵Cを創る、の繰り返しで、結果的にそうなってしまったのだという。つまりは、さまざまなタイプのミステリの着想があふれて止まらない才人ということだ。
現代でこのスタイルのミステリ作家はというと、まず筆頭が赤川次郎。次いで本書の著者である青柳碧人ということになるだろう。作品数ではデビュー作の『浜村渚の計算ノート』シリーズがもっとも多いが、本誌の昔話ミステリシリーズも、順調に巻数を重ねている。
19年の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』から年に1冊のペースで『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』と続き、この『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』が通算4冊目となる。
奇数巻では日本のおとぎ話、偶数巻では西洋の童話がベースになっている。誰もが知っている物語が、恐ろしくトリッキーで密度の濃い本格ミステリに仕立てられている点が、このシリーズの最大の特徴だ。日本篇が基本的に1話完結であるのに対して、西洋篇は赤ずきんがレギュラーを務める連作になっているところも面白い。
第1幕「目撃者は木偶の坊」では、ピノキオの腕を拾った赤ずきんが見世物小屋のキツネ殺しの犯人にされてしまう。ピノキオの首が犯行を目撃しており、その鼻が伸びないことから容疑は確実と思われたが……。
第2幕「女たちの毒リンゴ」では、白雪姫が身を寄せる七人の小人の家で恐ろしい殺人計画が進行する。意外過ぎるその犯人とは──?
さらに赤ずきんは、盗まれたピノキオの身体のパーツを探して、「ハーメルンの笛吹き男」や「三匹の子豚」の舞台を転々としながら、行く先々で奇妙な事件を解決することになる。才人が細部にまで工夫を凝らしたこの連作は、楽しい童話の世界に謎解きの要素を加えることで、かつてない相乗効果を生んだ傑作と言えるだろう。