累計80万部突破! 元敏腕目付で剣の達人でもある愛坂桃太郎が、愛する孫のために奮闘する大人気「わるじい」シリーズが待望の再始動! 今回は書評家・細谷正充のレビューで『わるじい義剣帖【一】 またですか』の読みどころをご紹介します。
■『わるじい義剣帖【一】 またですか』風野真知雄 /細谷正充[評]
元目付で剣の達人。謎には強いが、孫娘にはメロメロ。あの、愛坂桃太郎が帰ってきた。「わるじい」シリーズの第3シーズン、待望の開幕だ。
謎には強いが、孫娘には弱い。元目付の隠居・愛坂桃太郎が帰ってきた。「わるじい秘剣帖」全10巻、「わるじい慈剣帖」全10巻に続く、第3シーズンの開幕である。
息子が外で作った孫娘の桃子に、メロメロかつデレデレの愛坂桃太郎。しかし前作で、桃子の母親の珠子が町方同心の雨宮五十郎と夫婦になり、母娘一緒に八丁堀の役宅に移り住んだ。それまで母娘がいた長屋で暮らし、毎日のように桃子と遊んでいた桃太郎。新たに長屋の住人となった、おきゃあとおぎゃあという初老の姉妹が煩く声をかけてくることにも辟易し、屋敷にも戻った。生き物好きの桃太郎は、犬や猫を相手にして無聊を慰めるが、退屈でしかたがない。
そんなとき、蕎麦屋に入った桃太郎は、奇妙な話を聞く。植木屋の甥が、赤く塗った蠅を、大量に飼っているというのだ。興味を惹かれた桃太郎は、甥が働いている石町の〈山中屋〉の隠居家に行く。隠居が死んで、妾に譲られたという家だ。ところが元妾のおぎんは、目付時代の事件で顔を知っている女だった。一方、雨宮家の敷地内にある借家で、店子の女絵師・一桜斎貞女が殺された。桃子の身を案じる桃太郎は、こちらの事件も調べ始める。
本書は全4章で構成されており、各章で奇妙な事件が起こる。第1章の、赤く塗られた蠅の謎。第2章は、箸を使わず蕎麦を食べる女の謎。第3章は、行方不明になった猫を捜すため懸賞を出したら、3匹も持ち込まれたので、自分の飼っていた猫を見分けてほしいと頼まれる。第4章は、なぜか手が汚れていることの多い芸者の謎である。
どれも現代ミステリーでいうところの“日常の謎”といっていいだろう。しかし不可解な謎の魅力は抜群だ。第3章の猫騒動の裏にある人間の心や、第4章の意外なほど大きくなっていくストーリーには感心した。風野作品はミステリー要素の強いものが多いが、本シリーズもそのひとつ。奇妙な謎とその真相が、楽しく読めるのである。
さらに女絵師殺しの調査が、各章を通じて徐々に進んでいく。最後まで読んで、ちょっと呆気にとられたが、シリーズを前提にしているのなら、この展開もありか。
また、従来のシリーズの脇役陣に加え、本書から新たに“わるじいワールド”の住人になりそうな人も何人かいる。再び屋敷を出て、雨宮家の借家で暮らし始めた桃太郎が、どんな活躍をしてくれるのか。桃子相手に、どんな“じじ馬鹿ぶり”を見せてくれるのか。シリーズの今後を期待せずにはいられないのだ。