結成16年以上の新漫才賞レース『THE SECOND』で、フリートークのような漫才を武器に並み居る強豪を倒し、見事準優勝を勝ち取ったマシンガンズ。ゴミ清掃員としても活躍中のマシンガンズ滝沢秀一がゴミ清掃を始めた直後に執筆した文庫『かごめかごめ』がこのたび重版出来となった。ゴミを漁るストーカーが主人公の本作は、ゴミ清掃を生業にしている著者だからこそのリアリティと、芸人ならではの発想力が見られるホラー小説となっている。果たしてどのようにして本作は生まれたのか。執筆の背景をうかがった──。
取材・文=大貫真之介 撮影=貴田茂和
『THE SECOND』は、西堀が副鼻腔炎で手術することになっていたから、「来年にしようか」と回避するはずでした。
──『かごめかごめ』の単行本が刊行された2014年は、『THE MANZAI』(フジ系)の認定漫才師に選ばれたものの決勝には進めませんでした。芸人としては、どんなモチベーションでしたか?
滝沢秀一(以下=滝沢):『THE MANZAI』で決勝に手が届かなくて、芸人だけで食べていくのは難しいんじゃないかと思い始めました。「本業が芸人で、ゴミの本が売れて、小説も書いて多才ですね」なんて言われることもあるけど、芸人として売れなかったから手を出しているだけなんです。
──その10年後に『THE SECOND』(フジ系)で準優勝するんですからドラマチックですね。
滝沢:そもそも『THE SECOND』に出ようと思っていなかったけど、マネージャーが応募したんです。西堀が副鼻腔炎で手術することになっていたから、「来年にしようか」と回避するはずが、予選がその前日だったので「じゃあ、出るか」と。
──ネタ時間が6分あることで「本ネタ+遊び」ができて、マシンガンズの強みが出たのかなと思います。
滝沢:確かに、『M-1グランプリ』(テレ朝系)のような4分のネタを仕上げる大会だったら、僕らのスタイル的に厳しかったかもしれません。時計を見ながらなんとなくしゃべって、本ネタに入るという。その本ネタは15年前のネタなんですけどね(笑)。
──いつでも終わらせることができるスタイルなので、6分ギリギリまでネタができました。
滝沢:決勝でも残り2秒で終わらせて(笑)。アドリブが多いからできたんです。普段からネタ合わせをしていないので、決勝でもネタ合わせをしませんでした。
──漫才を確立したコンビだから、できたことだと思います。中川家もナイツもネタ合わせしないと言いますから。
滝沢:そんなことはなくて(笑)。「勝っても負けてもどっちでもいい」と思っていたことが、結果的にいい方向につながったというか。
──『THE SECOND』では、ランジャタイ、金属バット、三四郎、とコアなファンが多いコンビと当たりました。お笑いファンが審査員という形だと不利なのかなと思いましたが、逆に、マシンガンズの空気になりました。
滝沢:みんな『M-1グランプリ』に出られなくなったばかりの芸歴16、17年目で脂が乗ってるし、ネタだって何本もあるはず。金属バットなんて「あと8本ある」と言ってましたから。僕らは目の前のことに必死だったんです。よく見たらハズしてる箇所がたくさんあったと思うけど、僕らは「勝っても負けてもどっちでもいい」思って、とにかく勢いを大切にしていました。
──最終決戦で「3本目のネタがなかった」と話していますが、披露するネタはすべて番組側からのコンプライアンスチェックがあったんですよね?
滝沢:コンプライアンスチェックでは3本目にやるネタのトピックを何項目か出していたけど、本番前に相方の西堀が「こんなにいっぱい覚えられないよ!」と言って。結局、そのうちの3つに絞って、あとはアドリブだけでいこうとなったんです。本番は3トピックやった時点でまだ1分30秒残っていたので、西堀が覚えてないトピックをひとつ足しました。
──個人的には、マシンガンズさんが優勝する可能性もあると思ったのですが……。
滝沢:その日の最低得点だったというね(笑)。マシンガンズの初舞台もトーナメント制で、結構ウケて決勝まで行ったけど、そこでもネタがなくて負けたんです。25年経って、同じことをやっている(笑)。
──『THE SECOND』で準優勝したことでメディア露出が増えて、『かごめかごめ』文庫版の重版も決まりました。
滝沢:2020年に文庫化するにあたって最後の一文を書き直したんですけど、自分で読んでもいい出来だなと思います。『THE SECOND』で僕のことを知ってくれた方にも『かごめかごめ』を読んでほしいです。
──今後も芸人の活動とゴミ関連の仕事を並行されると思いますが、執筆活動はされるのでしょうか?
滝沢:いまも小説を書いて、賞に応募しています。自ら課した責務というか、ゴミ清掃の仕事が軌道に乗っても『THE SECOND』で準優勝しても、書かずにいられないんです。
【あらすじ】
オレと同じ女をストーカーしている男がいた。ストーカーのライバル。最初は追っているだけだった。支配しているつもりだった。しかし、ある日、女のゴミの中から出てきたものは、オレに宛てたメッセージだった…。いつの間にか「追う者」から「追われる者」へと逆転していく恐怖と焦燥。しかし、それは真の恐怖への序章に過ぎない。童謡『かごめかごめ』の詩に隠された歴史が紐解かれていく──。
『THE SECOND』で準優勝に輝いたマシンガンズ。「ゴミ清掃員」としても多数メディア出演している滝沢秀一が、ゴミ清掃業を始めた際、「ゴミは個人情報の宝庫だ」という気付きから執筆した小説が本作である。2013年スマホ小説サイト「E☆エブリスタ」で閲覧数2万人を突破し、ホラーオカルトカテゴリーで最高位2位を記録した『鬼虐め』を改題、今回文庫化にあたり加筆修正した。
滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)プロフィール
1976年生まれ、東京都出身。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」結成。2012年から芸人と並行してゴミ収集会社に就職。『このゴミは収集できません』(白夜書房)『ゴミ清掃員の日常』(講談社)など、ゴミ収集中の体験を記した書籍を多数出版。2023年『THE SECOND~漫才トーナメント』(フジ系)でマシンガンズが準優勝に輝く。