結成16年以上の新漫才賞レース『THE SECOND』で、フリートークのような漫才を武器に並み居る強豪を倒し、見事準優勝を勝ち取ったマシンガンズ。ゴミ清掃員としても活躍中のマシンガンズ滝沢秀一がゴミ清掃を始めた直後に執筆した文庫『かごめかごめ』がこのたび重版出来となった。ゴミを漁るストーカーが主人公の本作は、ゴミ清掃を生業にしている著者だからこそのリアリティと、芸人ならではの発想力が見られるホラー小説となっている。果たしてどのようにして本作は生まれたのか。執筆の背景をうかがった──。

取材・文=大貫真之介 撮影=貴田茂和

 

 

次のページにいくための仕掛けを「怖いもの大喜利」として考えました。

 

──滝沢さんが『かごめかごめ』を執筆することになった経緯を教えてください。

 

滝沢秀一(以下=滝沢):お金がほしかったんです(笑)。

 

──本当ですか?

 

滝沢:本当ですよ。子どもが生まれるのに芸人としての稼ぎが少なくて、ゴミ収集会社で働き始めた頃でした。マネージャーに「お金になりそうなことはありませんか?」と聞いたら、僕が小説を書いてることを知っていたので、「エブリスタという携帯サイトに小説を投稿して、書籍化されたらお金になるんじゃないか」と言われたんです。それまでは純文学を書いて賞に応募していたけど、エンタテインメントにしようと「恋愛」か「ホラー」で迷ったんですけど、ケータイ小説ブームの名残りがあったので、恋愛は敵が多すぎるからホラーにしたんです。それで、『鬼虐め』というタイトルで投稿を始めて。

 

──賞に応募していた時もいいところまで残っていたんですよね。

 

滝沢:いくつかね。でも、大賞を取らないとお金にならないんですよ。優勝しないと賞金が出ない『THE SECOND』(フジ系)と同じ。いくらいいところまでいっても「没作品」と変わらないんです。

 

──それでも書き続けていたモチベーションはどこにあったのでしょうか?

 

滝沢:意地でした。たまに引っ掛かるから、それがアメになって「もうちょっとやってみよう」と思うんです。ただ、文學界新人賞の最終選考に残った時はコメントをいただいたけど、それ以外は何がよくて何が悪かったか、自分ではわからなくて。

 

──『鬼虐め』は双葉社賞を受賞して、『かごめかごめ』として単行本化されました。

 

滝沢:マネージャーから受賞の連絡があった時、雨が降る中、ゴミ清掃の仕事をしている時だったことを覚えてます。

 

──コントなら世界観を小説に応用できそうですが、マシンガンズの漫才を小説に反映させるのは難しそうです。

 

滝沢:『かごめかごめ』は「怖いもの大喜利」みたいなところがあって。最初の掲載が携帯サイトだから、次のページに行くための仕掛けを作らなきゃいけなかったんです。楽しみながら大喜利を考えていました。

 

 

──北野武監督が『アウトレイジ』で「殺し方大喜利」をやっていたような。

 

滝沢:恐れ多いですけど、感覚としては近いかもしれないです。

 

──主人公はストーカーなのに、緊張感の出し方でうっかり感情移入してしまいます。

 

滝沢:自分が人を殺してしまったことがバレたくなかったら、どうやって死体を処理するんだろう、と想像しながら書きました。執筆期間の約2カ月は殺人者の気持ちで過ごしていたんです。

 

──エグい描写も多いですよね。

 

滝沢:学生も読むだろうと思って、表現を抑えたつもりなんですけど、十分エグかったみたいですね(笑)。

 

──何かを参考にしたんですか?

 

滝沢:ホラー映画はちょこちょこ観てました。おふくろが『13日の金曜日』とビートたけしさんの番組が好きで、小さい頃から一緒に観ているうちに「ホラー」と「お笑い」が刷り込まれたんです。『13日の金曜日』も「殺し方大喜利」じゃないですか。

 

──『かごめかごめ』は途中で大きな仕掛けがあります。

 

滝沢:書いているうちに構想していたプロットから外れていって。しかも、主人公に名前をつけないままだったんです。「どうしようかな」と考えた時、あの仕掛けが浮かびました。それも大喜利なのかもしれません。

 

──後半はホラーのテイストが変わっていきます。

 

滝沢:閉鎖された村って怖いじゃないですか。人間関係がこじれてしまったら行き場がなくなる。昔もいまも現実にあるホラーですよね。

 

──コロナ禍で、そんな報道がありましたからね。

 

滝沢:そうそう。人間って怖いなと思います。

 

──『かごめかごめ』は、2012年から始めたゴミ清掃の仕事がストーリーに反映されています。

 

滝沢:ゴミ清掃の仕事をやって最初に感じたのは、個人情報がわかるものをそのまま捨てている人の多さ。ストーカーが名前と電話番号が書かれた請求書を見つけたらどうするんだろうと思って。それが『かごめかごめ』につながるんです。小説を書く前にシュレッダーを買いましたけど(笑)。

 

──ゴミ清掃の仕事があったから『かごめかごめ』が生まれたんですね。

 

滝沢:知らない世界を取材するのは面倒くさいけど、自分が知っていることなら書きやすい、という理由ですけどね(笑)。ゴミ清掃の仕事を10年以上経験しているいまのほうが、もっと上手く描写できるかもしれない。ゴミ関係の本を13冊くらい出してますから。

 

(後編)に続きます

 

【あらすじ】
オレと同じ女をストーカーしている男がいた。ストーカーのライバル。最初は追っているだけだった。支配しているつもりだった。しかし、ある日、女のゴミの中から出てきたものは、オレに宛てたメッセージだった…。いつの間にか「追う者」から「追われる者」へと逆転していく恐怖と焦燥。しかし、それは真の恐怖への序章に過ぎない。童謡『かごめかごめ』の詩に隠された歴史が紐解かれていく──。
『THE SECOND』で準優勝に輝いたマシンガンズ。「ゴミ清掃員」としても多数メディア出演している滝沢秀一が、ゴミ清掃業を始めた際、「ゴミは個人情報の宝庫だ」という気付きから執筆した小説が本作である。2013年スマホ小説サイト「E☆エブリスタ」で閲覧数2万人を突破し、ホラーオカルトカテゴリーで最高位2位を記録した『鬼虐め』を改題、今回文庫化にあたり加筆修正した。

 

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)プロフィール
1976年生まれ、東京都出身。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」結成。2012年から芸人と並行してゴミ収集会社に就職。『このゴミは収集できません』(白夜書房)『ゴミ清掃員の日常』(講談社)など、ゴミ収集中の体験を記した書籍を多数出版。2023年『THE SECOND~漫才トーナメント』(フジ系)でマシンガンズが準優勝に輝く。