2020年に第69回小学館児童出版文化賞を受賞した、椰月美智子さんの『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』がこの度、双葉文庫から発売されました。

 小学6年生の仲良し少年三人組と85歳のおじいさんがひょんなことから出会って“74歳差”の友情が育まれる物語。文庫化に際し、物語に感銘を受けた主人公と同じ小学6年生の男の子の感想文(新潟県課題図書読書感想文コンクール最優秀賞受賞作)と、現役中学教師の方が椰月美智子さんにお送りした熱いお手紙を公開します!

 

【あらすじ】
小学6年生の拓人、忍、宇太佳はスケボーが大好きな仲良し三人組。神社の管理人、田中さんと出会ったその日から11歳と85歳の交流が始まった。いつも穏やかで優しい田中さん。でも少年時代に味わった戦争による辛い経験を聞き、拓人たちは学校である行動を起こす──。

 

【読書感想文】

第49回新潟県課題図書読書感想文コンクール最優秀賞受賞作
「田中さんがおしえてくれたこと」
塚田直弥君(新潟市立白山小学校6年 2020年当時在籍)

 

「時間をね、大切に使ってほしいんだ」という田中さんの言葉がぼくの胸にいつまでも残った。田中さんは11才の時、戦争で家族を失った。ぼくには想像もつかない。生きるのに精いっぱいで、楽しい思い出なんてなかったかもしれない。田中さんは拓人達の話を聞きながら、自分が子供のころにできなかったことをやり直しているような気持ちだったのだろう。そして、拓人達には、やりたいことをくいのないように、やってほしいのだと思う。
 でも、拓人達にとって、田中さんとの時間こそが、何より大切だったにちがいない。サッカーや勉強に、やる気をなくし意味もなくイライラしていた拓人は、田中さんと出会い、どんどん変わっていく。お手伝いは真剣で楽しそうだ。たくさんおしゃべりをし、温かく見守ってもらい素直になった。田中さんと、拓人達のやりとりには、おたがいをよく知って理解しようとし、相手を思いやる気持ちがあふれている。相手の居心地のいい場所を作ってあげることが、結果として自分の居心地のいい場所を作っている。ぼくも、友達や家族とそんな関係が作れるといい。
 拓人達は、田中さんから戦争の話を聞き、そのおそろしさを知る。直接体験した人からの話は、何よりも重く心にひびいただろう。その気持ちを自分の中にとどめるのでなく、講演会を企画し、成功させた行動力はすごい。戦争や田中さんのことをみんなに知ってほしいという思いのほかに、田中さんに喜んでほしい、元気を出してほしいという思いがあるからだと思う。みんなにも田中さんにも、その思いはしっかりと伝わったはずだ。
 この本には、人と人とがつながり心を通わせることの大切さがあふれている。科学は発達し、家にいても世界中の情報を知ることができ、買い物もできる。さらに新型コロナウイルスの影響で、リモートワークや、オンライン授業が話題になっている。人と直接会わなくても、たいていのことは、できてしまう。でも、その便利さと引きかえに、心を成長させる機会をなくしてしまわないかが心配だ。
「甘くて柔らかくてキラキラしていて、まるで夢を食べているみたいな」チョコバナナ。田中さんにとって拓人達は、チョコバナナそのものだ。ぼくも小学6年生。勉強して遊んで、バイオリンの練習をして、妹とけんかして。思うようにならなくてイライラすることもあるけど、楽しい毎日だ。田中さんが、かけがえのないチョコバナナのような日々だということに、気付かせてくれた。ぼく達は、居心地のいい場所にとどまり続けることはできない。拓人も進み始めた。立ち止まりたくなったら、田中さんが、いつも笑顔でむかえてくれる。田中さんがいなくなる時が来ても、拓人の心の中にはずっといる。
 いつかぼくも田中さんの年になって、チョコバナナのような今を思い出すのだろうか。かけがえのない今と、人とのつながりを大切にし、夢に向かって進んでいきたい。

 

【椰月美智子さんへのお手紙】

「椰月美智子先生へ」
山田大祐さん(千葉県流山市立南流山中学校教諭 2020年9月22日付)

 

 この度は『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』で小学館児童出版文化賞のご受賞おめでとうございます!
 この休日に再読させていただき、主人公の拓人をはじめ、11歳の少年たちと74年前に11歳だった田中さんとの交流が、ほんとうにいいなぁーと感じました。
 今年の8月15日で戦後75年目を迎えました。今、私は中学3年生の担任と、国語の授業を持っています。7月の1学期の終わりに授業の中で、中3の子どもたちに“戦争”について考えてもらい、1分間のスピーチを行いました。どの子どもたちも自分が今まで見て、聞いて、知った情報を元にいろんな視点から戦争について考え、伝えていて、正直スゴいなぁーと感心しながらスピーチを聞いていました。私も今35歳なので、子どもたちと一緒で本当の戦争は知りません。子どもたちの家族の中にも戦争を経験している方はもうほとんどいませんでした。
 多くの子どもたちのスピーチは「もう二度と戦争はしてほしくない」とか「自分たちが大人になったら、このまま平和をつづけたい」というものでした。一方で、今のこの平和な日本が本当に豊かで、生きやすいのかと考えている子どももいました。ネットやSNSなどでの匿名の誹謗中傷や若者の自殺が多いことを挙げ、今が本当に平和なのかと伝える子もいました。
 椰月先生の物語の中の少年たちは田中さんと出逢い、田中さんのケガの看病をしながら、たくさんのことを知り、学び、自分たちの生活を変えていきます。今の子どもたちにとって必要なのは、まさに田中さんのような存在なのかもしれないと感じました。今はコロナによって、集団での対話が難しい状況です。でも、子どもたちは、学校に来て、仲間と逢い、たくさんの話をします。もちろんマスクはつけていますが、休み時間など友だちと話をしている姿はとても楽しそうです。
 きっと子どもたちは、もっともっと人に自分のことを聞いてもらい、話をしたいのだと感じます。でも残念ながら、学校ではコロナによる休校の分の授業を進めようと、授業授業の日々です。中3で塾に行っている子たちは、本当に朝から夜まで勉強の毎日です。教員が言うのも変ですが、とてもかわいそうだなぁーと思います。だから、今の子どもたちの近くに田中さんのような方がいて、自分の話を否定することなく、しっかり聞いてくれ、時を忘れて過ごす時間を持てるのはとてもいいなぁーと強く感じました。
 戦争はダメだ!とか、こんなに恐ろしいことがあったぞ!というのではなく、田中さんの人柄なども分かってきたところで、自分の身内が戦争によって命を落とし、自らも足にケガを負うものの、こうして今も生きていることを知る。そして、何よりも田中さんにも自分たちと同じ11歳の時があり、今がある。この本を通して、私の目の前にいる子どもたちにも、田中さんとの時間を過ごしてもらい、自分の本当の生活の中で、田中さんから得たもの感じたものを受け継ぎ、これから生きていってほしいと思いました。中学生の子たちにもたくさんオススメしていきます。これからも応援しています!