双葉文庫の警察小説アンソロジー・シリーズの、最新刊が出版された。今回のメンバーは、麻見和史・沢村鐵・藤崎翔・吉川英梨の四人。さまざまなタイプの警察小説が堪能できる、贅沢な一冊になっている。

 冒頭を飾るのは、麻見和史の「星の傷痕」だ。なにかとツイていないことや、名前をいじられることから、ネガティブ思考の黒星達成。元看護師で、ポジティブ思考の白石雪乃。新たにコンビを組んだ、本所署の刑事が、猟奇殺人らしき事件を捜査する。

 コンビを組んだ対照的な刑事を、作者は巧みに描いている。元看護師という白石の設定を生かした、謎解きも巧みだ。警察小説の雄である、作者の手腕を堪能した。

 なお、先月号の本誌に、第三弾となる「罪の傷痕」が掲載されている。楽しみなシリーズになりそうだ。

 沢村鐵の「道案内 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿」は、作者の人気警察小説「クラン」シリーズの番外篇だ。ただしシリーズ未読でも楽しむことができるだろう。インド政府まで巻き込んだ誘拐事件。その捜査に携わった小野瀬遥巡査は、不思議な夢を見たことで、真相に迫っていく。警察小説にファンタジーの要素を加えた、ユニークな作品なのである。

 藤崎翔の「読心(どくしん)刑事・神尾瑠美」も、異色の警察小説だ。R県警の捜査一課三係に配されて、やる気満々の根津優吾。だがそこは、テレパシストの神尾瑠美の能力を生かすために存在する、特別な部署だった。行方不明になった人物が、殺されたかどうか調べるよう頼まれた瑠美は、あっさり真相を看破。しかし犯人を捕まえる証拠はない。いかにしてこの事件を解決するかが、ドタバタ騒動と共に描かれていく。ぶっ飛んだ内容に、大笑いさせてもらった。

 ラストは吉川英梨の「ファーストレディの黒子」だ。作者の警察小説といえば、目的のためには非合法な手段も辞さない警察庁直属の諜報組織『十三階』の活動を描いたシリーズが有名である。本作の主人公は、その『十三階』に所属する古池慎一だ。

 内閣官房副長官と密会していた首相夫人が腹上死を遂げた。この件の隠蔽工作を頼まれた古池だが、ある事実が明らかになり、事態は思いもかけない方向に転がっていく。カーアクションからミステリーのサプライズ、さらには古池の非情な在り方まで、読みどころは盛りだくさん。掉尾に相応しい秀作である。