2009年の刊行より今なお共感の声が絶えない、椰月美智子さんによる『るり姉』。三姉妹と叔母の交流が描かれた物語は、多くの読者の心を温かな想いで満たしてきました。この度発売される新装版のカバーイラストは、新進気鋭のイラストレーター・楓真知子さんの描き下ろし。素朴な優しいタッチで彼女たちの新たな魅力を引き出してくれました。

 新装版では、絵本『かいじゅうたちのいるところ』などの翻訳でも有名な児童文学者の神宮輝夫さんと、「暮しの手帖」前編集長の澤田康彦さんが寄せてくださった書評を帯に抜粋しています。その書評全文をご紹介! 作品の魅力を余すことなく語ってくれました。

 

現代日本の「若草物語」

 

 渋沢家は女ばかりの一家で、母親けい子は看護師、長女さつきは高校生、次女みやこは中学生、三女みのりは小学生。本のタイトルになっているるり姉は、けい子の妹――三人姉妹にとっては叔母である。

 登場人物の関係は第一章で、さつきがなめらかな語り口で教えてくれている。さつきは、母親と同世代なのにいつも本気で遊んでくれるるり姉の魅力を、今の若者言葉で要領よく語る。

 るり姉は、次女のみやこが中学入学と同時につやのある黒髪を腐った赤キャベツのような色に染めても、「ばかなことをする」と言いながら、そのまま受け入れる心の広さを持つ。そういったエピソードのいくつかを、さつきは巧みに使って話を進めるので、三人姉妹のるり姉に対する傾倒ぶりが読者も納得できる。

 そんなるり姉が、検査入院する。姉妹はお見舞いに行ってゲームなどを一緒に楽しみ、安心して帰るのだが、るり姉の入院は長引く。またお見舞いに行くと、るり姉はやせ、以前ほど元気がない。姉妹の心配は募り、やがては悲劇を予感する。母と三姉妹と叔母の、活気あふれる生活に徐々に不安の影がさしていくプロセスが実にうまく構成されている。

 第二章はけい子の仕事と生活が描かれ、第三章はみやこの並外れた中学生ぶりが楽しい。第四章は、それまで脇役だったるり姉の連れ合いが主役で登場する。

 その間、読者はるり姉の運命についてペンディング状態で、末っ子のみのりが高校生になる第五章まで待たされる。

 この五人の女性たちは、大小の問題を次々繰り広げて読者をやきもきさせるのだが、彼女らが男など入り込む余地のない固い結び付きを作っていることがよくわかる。現代日本版の「若草物語」である。この「新しい若草物語」の女性の結束は天下無敵。病気など、はじきとばして、読者の心にあたたかな灯をともしてくれる。

 

神宮輝夫(児童文学者・元青山学院大学名誉教授)
河北新報2009年5月17日掲載 共同通信配信

 

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家族という、はかない、かけがえのない形

 

 家族や親族の形は、ひとところに留まるためしなどなく、どんどんうつろってゆくものです。

 旅行一つとってもそうで、ついこのあいだは夫婦二人だけのしみじみ旅、、、、、であったものが、いつしか子どもたちがやってきて、気付けば座席も4つ必要となり、わあわあコラコラきゃあ! と大騒ぎ(うちです)。

 ついこのあいだまで次男であり弟と呼ばれていたのに、「叔父ちゃん」「夫」ついには「お父さん」なんて呼ばれるように(僕です)。

 家族というのは気付けば自分も構成員で、人数も増えたり減ったり、時や成長とともに立場も変わり、全体像もうねうね変化していくもの。

『るり姉』は、そんな現代の一家族のほんの一時期、5つの季節をチョキンと切り取り差し出した連作小説。各章の語り手はるり子以外の5名で、それぞれの活き活きとした生の姿が照らし出される。その光源が、るり子なのです。

「るり姉が、テストの点なんて気にするわけないじゃん」(さつき/姪、三姉妹長女)
「だって、るり姉だよ。奇跡が起こるに決まってる。るり姉にかかれば、魚は空を飛ぶし、モグラは日光浴をするのだ」(みのり/同三女)
「一緒にいればいるほど好きになる。昨日より今日の方が、もっと好きだと思える」(開人/夫)

 こんなふうに描かれる女性。みんなが愛し、気にする人です。

 そんな彼女が、ある日入院する。どうやら重篤な病らしく、次第にやせ始めてゆく。この現実が、明るく軽妙な語り口のなかの重低音となって響く、そんな物語です。

 るり姉と過ごしたイチゴ狩り、花火大会、クリスマス。それぞれが彼女を思い、美しい日々を回想する。いさかいがあったり、涙を流したり、思いっきり笑ったり。なんでもない日々のいとおしさ、はかなさ、大切さが鮮明に浮かび上がります。

 夫がぽつりと神様に祈る。

「幸せじゃなくていいです。どうか、ふつうでいられますように」

 人生ってこれに尽きる、と僕は思うのです。

 

澤田康彦(「暮しの手帖」前編集長)
「SKYWARD」2017年1月号掲載