様々な問題が噴出し成立が危ぶまれたカタールW杯も、終わってみれば史上最高の決勝戦との呼び声も高い死闘の末に、メッシが輝かしいキャリアに唯一欠けていたトロフィーを掲げて「大成功」に終わった。

 我らが日本代表はといえば、ドイツ、スペインというW杯優勝経験国を撃破してグループリーグを突破したものの、決勝トーナメント一回戦でクロアチアの前に惜敗。またしてもベスト8の壁は破れなかった。ここぞというところで点を取れる強力なFWがいれば……と歯がみした方も多いのではないだろうか。

 そんな日本のサッカーファンの夢を叶えるような小説がある。長年、海外サッカーの実況アナウンサーとして、その博識と遊び心、なによりサッカーへの愛で絶大な支持を得る倉敷保雄氏が著した『星降る島のフットボーラー』である。

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 W杯の余韻に浸りながら、日本を飛び立った新しい翼が世界を駆ける物語に胸を躍らせてみてはいかがだろうか。

 書評家・細谷正充さんのレビューで『星降る島のフットボーラー』の読みどころをご紹介します。

 

あのサッカー実況のカリスマ 初の書き下ろし小説!  「だれよりもサッカーを熟知している男の手によるサッカー小説。面白いに決まっている!」馳星周さん  「確かなフットボール知識と世界の解釈に裏打ちされた、ロマンティックでイノセントなおとぎ話。ものすごく楽しい!!」津村記久子さん

 

サッカー実況のカリスマがマイクをペンに持ち替え、理想のフットボールを紙上で展開。魅惑のファンタジック・フットボール小説。

 

■『星降る島のフットボーラー』倉敷保雄  /細谷正充:評

 

 2022年のワールドカップにおける、日本代表の熱戦の感動は記憶に新しい。私もテレビで対クロアチア戦を観ながら、サッカーが日本の人気スポーツになったことを、あらためて実感した。その証拠のひとつが、サッカーを題材にした小説の増加だろう。漫画はまだしも、小説はほとんど無いという状況が長らく続いていた。しかしプロ・リーグが発足し、人気を獲得していくと、徐々にサッカー小説が増えていったのだ。もちろん作者はみんな、サッカー好き。その極めつけといえるのが、サッカー実況のカリスマといわれるアナウンサー・倉敷保雄が2019年に刊行した書き下ろし長篇『星降る島のフットボーラー』である。

 父親の仕事の関係で世界中を転々としながら、サッカーを続けている、ハルこと星野遥也。優れた才能と、仲間のために熱くなれるハートの持ち主だ。作者は第1章で、そんなハルのキャラクターを読者に印象づけた後、彼をプロの世界に送り出す。大西洋に浮かぶ7つの島による天の川リーグに加盟している、エストレージャFCに入団したのだ。

 ハルを含めた4人の新加入により、活気づくチーム。しかし4人は、それぞれに問題や課題を抱えていた。一方で、スコルピウスというチームの新オーナーになったタランチューラ・アルゴルが、何事かを画策しているらしい。ハルの父親の親友で、エストレージャFCのオーナーの天美壮吉は、過去に因縁のあるアルゴルの思惑を潰すため、エストレージャFCとスコルピウスの試合に未来を託すのだった。

 読み出してすぐに、作者のサッカー愛が伝わってくる。迫真の試合描写だけでなく、プロ・サッカーを取り巻く人々の思考と行動が、しっかりと表現されているのだ。サッカーに詳しい読者ほど、ちょっとした部分に感心することだろう。

 さらに登場人物が魅力的。プロ・サッカーの未来を見据えている壮吉と、その娘のリッカこと六花。有能だが新薬を選手で実験しようとするチームドクターの奈良丸明彦。選手の育成に長けた監督の立知花薫……。個性的な面々に囲まれながら、ハルが成長していく様子が、実に気持ちいいのだ。

 ところが中盤になってアルゴルが登場すると、物語のトーンが変わる。審判まで抱き込み反則上等のチームとなったスコルピウスと、あくまでもサッカーで勝負するエストレージャFCの戦いは、まるで熱血少年漫画だ。妖術や占星術まで登場する展開に最初は戸惑ったが、やがて納得できた。作者はサッカーが大好きだが、エンターテインメント物語も大好きなのだろう。だからサッカー小説という器の中に、自分の好きなネタを、ギュウギュウに詰め込んだのだ。

 それでもストーリーが纏まっているのは、すべての要素がサッカーの試合と、ハルの活躍へと収斂していくからである。ハルと一緒になって、喜んだり怒ったりしているうちに、作者の創り出した世界に夢中になってしまうのだ。だから、とんでもないサッカー小説が、とんでもなく面白いのである。

 なお本書が、ドラマ化やアニメ化されることがあったら、試合の実況アナウンサーを、ぜひとも作者にやってもらいたい。きっといつもの名調子を聞かせてくれるはずだ。

 

※なお、本書の装画&挿絵は『交響詩篇エウレカセブン』のキャラクターデザインで知られる吉田健一氏が担当。本文と併せてぜひお楽しみください。