今年芸能生活50周年となるなぎら健壱さんが10月20日に、“頑張りすぎないけど、枯れもしない”生き方指南書『アロハで酒場へ なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ』(双葉社)を上梓した。そんななぎらさんの本の出版を祝して、仲良しの所ジョージさんとの対談が実現。冒頭からお二人が縦横無尽に、所さんの秘密基地「世田谷ベース」でさまざまに語りあった。

(取材・文=荒井理恵 撮影=中惠美子)

 

なぎら「区切りとか集大成っていうより、流れの中のひとつですよね」
所「ここまできちゃったから振り返れば、大変だったんだなって他人事のように思うけど」

 

所ジョージ(以下=:僕はなぎらさんのこと、デビューの前から見てたんですよ。その頃はたとえばキャロルとかフォークシンガーとかがいる中になぎらさんが出てきてね。イベントに一緒に参加してるんだけど、どっか違うところから見てて、全体を小バカにしながら何かやってるわけ。人を食った感じのスタンスに、ちょっとした憧れみたいなのはあったんですよ。今はなぎらさんはカントリー一辺倒だけど、はじめのうちはとぼけた歌をみんなに喜んでもらおうと作ってたよね。そういうの聴いていると、くすぐったいわけ。爆笑じゃないんだけど、なんかどっかくすぐったいっていうのを見つけるのってすごく面白いし難しいんですよ。

 

なぎら健壱(以下=なぎら:一緒にライブやったときはね、何かしかけてくるだろうなってお互いに思ってるわけよ。あるときはギターケースからネックが15センチくらいのギターを出してきてね。高い音しかチューニングできないわけ。で、こっちはケースあけるとネックだけで、そこにハーモニカつけて吹いた。

 

:ふふふ、あったなそんなの。

 

なぎら:見てる人たちはあっけにとられてるわけ。うちらは大真面目なのよ。

 

:大真面目。準備するのにお金も時間もかかるしね。だけどね。そういうふざけてたのってじわじわくるもんで、爆発力ないんですよ。だから大イベントにつながらないの。だってさ、武道館に何万人も「そんなのやります」ってのに集まるわけないじゃん。

 

なぎら:あははは(笑)。そういういい加減さをほめてもらいたいというのもあるんだよね。

 

:そうだね。ほめられたいよね。すごいなーって言われたいんだよね。大変なことは隠しといて、思いつきでやってんだくらいに評価されたいのよ。でもその分野は、日本ではちょっと無理だね。

 

なぎら:なかなかね。

 

:難しいんだよね。貧しいんだもん、気持ちが。豊かさがないっていうか。

 

──でもその道を歩まれてきたわけですね、お二人とも。

 

:それしかできないんだよ。だって、どっかで自分を笑っちゃうんだもん。「そんな真面目だったっけ? おれ」ってさ。そんなわけないでしょって。

 

なぎら:第三者であるもう一人の自分が自分を見たら、なんだと思うよね。

 

:「何やってんの?」ってね。ふざけたことは反省しないけど、真面目なことなんかやると反省しちゃうよね。そんな人じゃないでしょ、って。

 

──なるほど。そうこうしつつも、今年、なぎらさんは芸歴50年になりますよね。

 

なぎら:区切りとか集大成っていうより、流れの中のひとつですよね。本を出したりライブやったりしますけど、準備をみんながしてくれてるわけで、お客さんに対してもそうですけどありがたみを感じてますね。

 

:なぎらさんのライブは、実際に行ってみるとちょっとショック受けると思うよ。ちゃんとしてるんで。やっぱりこういうことをやってる人が持っている大きい柱がほしいよね、ほんとはね。曖昧なことやってるから曖昧な柱にしかならないんだろうな、とは思うけど。

 

──とはいえ、50年芸能界で生き延びるってすごく大変なんじゃないかと思うのですが。

 

:大変ですよ。すごく大変。だけど、本人たちは大変なんてちっとも思ってない。「ああ大変だなあ」なんて思わないし、ただ、ここまできちゃったから振り返ればずいぶんきたから、「大変だったんだな」って他人事のように思うけど。

 

なぎら:そうそう。

 

:今の時代は芸能界に入るのに学校があったりするけど、僕らの頃はそんなのないからね。だけどね、学校から入ってくるとさ、なんていうか野性味を感じないんだよね。

 

──野性じゃない!

 

:練習して一生懸命やったのは感じるけど、野性感はないよね。

 

なぎら:根底にあるものが違うよね。

 

:そういう人たちが芸能界入っちゃうと椅子ができて、そこにすわって「芸能人です」みたいになって、後輩と飲んでみたいなので終わっちゃうでしょ。うちらの世代は野生だから、なんか次のもの考えなきゃ、明日はもうダメだとか思うわけ。

 

なぎら:野生って面白い言葉だね。いわゆる家畜じゃないんですよ、うちら。野っ原に生きてるんですよね。だから反対に自分たちでどうにかしようと思ってるから、強いしね。飼い慣らされてる人は何かやってもらわないと餌もらわないとできないから。

 

:でもこれね、たちが悪いのは、野生だとくさいとかね、またこんな畑に出てきたとか、そういう方向に行きがちでしょ。だから大事なのは、そう思わせない人柄。

 

なぎら:家畜に見える人柄ね。

 

:そうそう(笑)。

 

──それが50年の強さなんですね!

 

なぎら:一瞬家畜に見えるわけ(笑)。

 

:そう、まざってんの(笑)。野生の出入り口みたいなのを家畜の人は知らないけど、おれらは野生で知ってるから、いつでも野生にいける。

 

なぎら:家畜はそれを見てて、やっぱり「ああいうふうに生きたいな」と思うよね。

 

:ところが電気柵にぶつかっちゃったりするんだよね(笑)。

 

なぎら:で、やめよって。

 

:おれらはそれをまたぐ方法、知ってるからね。

 

なぎら:もちろん柵の壊れたところから出てくるやつが何人もいますよ。ただそうはいかない、野生界広いからね(笑)。

 

:そうだね。出てきても、あれが食えねえ、これが食えねえって贅沢言ったりね。

 

なぎら:野生のくせに、なんでも食え、この野郎。どんぐりのかさでも食ってろ、この野郎って。

 

:結局、邪魔するのは、自分のプライドなんだよね。かっこよく見られたいとか、そういう欲があると野生にはなれないわけ。だからかっこいい役者さん、たとえば高倉健さんなんかカレーとかこぼせないじゃん。おれらはこぼれたら「うわ、こっちもこぼしてみる?」みたいにバランスとるから。

 

なぎら:それでいつもカレーの香りがしたりするんだよ。なんたって野生だからね(笑)。

 

なぎら健壱(なぎら・けんいち)プロフィール
1952年、東京都中央区木挽町(現在の東銀座)生まれ。その後、葛飾、江東などで育つ。高石ともや、岡林信康、西岡たかし、高田渡らの影響を受け、フォーク・ソングに傾倒。1970年、岐阜県中津川で行なわれた全日本フォークジャンボリーでの飛び入り出演を機にデビュー。1972年、ファーストアルバム「万年床」をリリース。これまでに20枚以上のアルバムを発表している。趣味は数多く、カメラ、散歩、自転車、絵画、落語、飲酒、がらくた収集など。現在はコンサートやライブ活動のほか、テレビ、ラジオ、映画、ドラマ出演でも活躍。他方、新聞、雑誌などでの執筆も多く、代表作に『下町小僧』、東京酒場漂流記』、『関西フォークがやってきた!』、『高田渡に会いに行く』や写真集『東京のこっちがわ』など多数
12月中旬発売予定のデビュー50周年記念アルバム「ぐるり万年床~あれから50執年~」などの情報はこちら
http://roots-rec.s2.weblife.me/

所ジョージ(ところ・じょーじ)プロフィール
1955年、埼玉県所沢市生まれ。1977年、『ギャンブル狂想曲/組曲 冬の情景』でシンガーソングライターとしてデビュー。同年、『オールナイトニッポン』のパーソナリティに抜擢され人気を博し、以降、ミュージシャン、タレントとして活躍。現在では『世界まる見え!テレビ特捜部』や『ポツンと一軒家』などテレビ番組のレギュラー9本を抱える。また、俳優・声優としても『うちの子にかぎって』『オヨビでない奴!』などのテレビドラマから、映画『まあだだよ』、『トイストーリー』シリーズなど多方面で活躍。その一方、芸能界きっての趣味人としても知られ、クルマ(特にアメリカ車)、バイク、ゴルフ、Tシャツ、スカジャン、ゲーム、模型製作など多種多様。