「みをつくし料理帖」「あきない世傳 金と銀」シリーズなど時代小説作家として人気の髙田郁が描く現代の家族の物語が発売になった。ままならない人生でも、前を向いて歩くことの大切さを教えてくれる感涙必至の短編集になっている。

「小説推理」2022年12月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』の読みどころをご紹介します。

 

駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ

 

駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ

 

■『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』髙田 郁  /大矢博子:評

 

辛い日々の中にも、きっと救いはある──ささやかな優しさや一瞬の出会いが人を潤す、珠玉の短編集。「軌道春秋」待望の続編が登場!

 

現実はあまりに過酷で、辛い。だから溺れそうになることもあるし、逃げたくなることもある。けれどそんなときにふと、息がつけるような、背中に手を添えてもらったような、そんな瞬間も確かにあるのだ。だから、人は生きていけるのではないか。

 髙田郁『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』を読みながら、そんな思いにとらわれた。

 本書は2013年に出た『ふるさと銀河線 軌道春秋』の続編に当たる。だが鉄道が何らかの形でモチーフになった短編集であること以外の共通点はないので、どちらからお読みいただいても大丈夫だ。

 幼い娘を亡くした母親がウィーンに一人旅をする「トラムに乗って」。夫の遺影とともに異国を旅する「黄昏時のモカ」。いじめにあって転校を決意した少女がひとりで新しい学校へ向かう「途中下車」。離婚した両親をなんとか復縁させたい少年の北帰行「子どもの世界 大人の事情」。介護に疲れ死に場所を求める老夫婦の「駅の名は夜明」。夫に別れを切り出され、怒りを抱えたまま女友達と九州に旅をする「夜明の鐘」。電車内の異臭に始まる珍騒動を描く「ミニシアター」。人気作家と蕎麦屋の店員の切ない邂逅がテーマの「約束」。そして父の余命を聞いた息子が絶縁した家族のもとに戻る「背中を押すひと」。

 どれも辛い思いを抱えた人が主人公だ。その辛さの種類は違えど、それがまるで我が事のように心を締め付けてくる。覚えのある悲しみ、よくわかる痛みが、読者を襲う。

 けれど同時に、どの話にも偶然の出会いがあり、その出会いが結果として主人公を救うのである。泣き出した少女に「疲れたら降りていい」「次の列車は必ず来る」と話しかける大人がいる。「夜明」という駅の名前が、思いがけない救いになることもある。過酷な人生でも、どこかに救いは用意されているのだと励ましてくれるのだ。

 興味深いのは、最初の6作は2作ごとにちょっとしたつながりがあること。これもまた、意識しないところで人はつながり、そうとは知らぬ間に誰かを助けたり助けられたりしているという示唆に他ならない。

 コミカルな一幕ものの舞台劇のような「ミニシアター」は異色だが、実は私はこの物語で涙腺が緩んだ。人って捨てたもんじゃない、という温もりがじんわりと沁みてきたのだ。辛い人生にも必ず救いはある。そしてその救いをもたらすのは、やっぱり人なのである。