中3の息子、昴が家出した。行き先は富山県の氷見。慌てて連れ戻しに向かった母親のみゆきと父親の範太郎だが、昴はまだ帰らないという。倦怠期真っ只中、ほぼ口も利かなくなっていた夫婦は、昴が帰ると約束した日まで富山に滞在するはめに……。

 東京の狭い我が家で繰り広げられてきた夫婦の冷戦。雄大な北アルプスと豊かな富山湾を擁する北陸の旅先でも、やはり続行なのか? 

「これ、ウチのこと!?」と、長年連れ添った夫婦なら身に覚えのあるエピソードが満載!

「家事と子育て、避けて通れると思ってる?」妻
「妻はいつまで不機嫌を通すのか?」夫


 主人公である妻・みゆきと同年代の担当編集者S(48歳・二児の母)が、自身も妻であり、二人の息子さんを育てる著者の椰月美智子氏に創作の舞台裏などを伺った。

(撮影=市来朋久)

 

第1回はこちら

 

──みゆきは夫に対して「家事と子育て、避けて通れると思ってる?」「どうして自分の息子のことなのに、他人事なのか?」と不満を抱いています。まさに、世の多くの妻の思いを代弁してくれているようです。

 

椰月美智子(以下=椰月)近年、ジェンダー平等がだいぶ進んできていると感じていますが、家庭内ではまだまだだという印象です。家事もそうですが、子どもに関することは母親が、という意識が社会全体にあるような気がします。時間を取られる予防接種や通院、煩雑な学校への持ち物や提出物の用意など、ほとんどの家庭で母親が担っているのではないでしょうか。母親のほうも、間違いがあっては困ると、夫には任せきれない部分がある。わたしもそうです。夫にやってもらいたいけど、説明するのも面倒だし、心配で任せられない。

 でも、この考えがおかしいんですよね。妻がやってしまうから、夫は責任感を持てない。実際シングルのお父さんはすべてやってるわけですから。

 母親、父親、両方の意識を変えないといけないと思います。道のりは長いと思いますが。

 

──みゆきが流産したときに夫が放った言葉に対し、「あれはマンスプレイニングだった」とみゆきは回想しています。「マンスプレイニング」とは、男性が女性を無知だと決めつけ、見下した態度でアドバイスしたりすることを指しますが、範太郎の発言はまさにそうだったように思います。妻からすれば、完全にアウト!ですね。

 

椰月女性を見下したような態度を取る男性は、一定数いると思います。自分は気を付けている、そんなことはしない、という人も、言い合いになったときなど、自分を守るためにとっさに女性を貶める人っていますよね。家庭内ではそういうことが頻繁に行われている気がします。

 

──つい妻のみゆきに肩入れしてしまいますが、夫と妻それぞれの視点で交互に描かれているので、夫の立場から見た妻の姿にハッとすることもありました。たとえばいったん気に障ることがあると、いつまでも不機嫌を通してしまうことなど。

 

椰月わたしも、みゆきの気持ちに全面的に賛同ですが、夫から見ると、妻が不機嫌を通すことや、子どものことに神経質なところなど、鼻につくんでしょうね。

 妻は妻なりの、夫は夫なりの言い分があります。歩み寄るにはどちらかが妥協するしかないと思いますが、どうして自分のほうが妥協しなくちゃいけないんだ? そこまでする必要があるのか? とつい意地になってしまう。よく、夫を手のひらで転がせばOKみたいなことを言う人がいますが、そういうことができる時期はとっくに過ぎ去っているんです。

 わたしも、夫を許せる寛大な心が欲しいです。

 

──妻は浮気なんてするはずもないと思っている範太郎ですが、みゆきが抱えている秘密には正直驚きました。

 

椰月ママ友界隈では、よく耳にする秘密です(笑)。

 でもどうしてこんなに近い町内で? あまりにも手近すぎるのでは? と思い、ヒヤヒヤしますが……。

 

──普段ほとんど口も利かなくなっている両親に対して、息子の昴が「もっとふつうに過ごせばよくね? お父さんもお母さんもアホみたいだよ」と言います。このひと言、グサッときました。

 

椰月両親の仲が悪いと、子どもはなかなか自分の気持ちを口に出して言えないですよね。昴は素直に育ってくれてよかったです。

 子どもが委縮しないで堂々と自分の意見を親に伝えられる家庭環境を作りたいものです。わたしも肝に銘じます。

 

──息子の昴が家出した理由にも関わるのですが、両親のいざこざを尻目に、昴は自分の将来をしっかりと見据えていて頼もしいですね。

 

椰月:中学3年生で将来の目標を持って、進学先を決められる子はかなり少数だと思うので、昴は本当に頼もしいです。昴のような息子、いいですね……。

 

〈第3回〉に続きます。

 

椰月美智子(やづきみちこ)プロフィール
1970年神奈川県生まれ。2002年『十二歳』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。07年『しずかな日々』で野間児童文芸賞、08年坪田譲治文学賞、17年『明日の食卓』で神奈川本大賞、20年『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』で小学館児童出版文化賞を受賞。その他に『るり姉』『14歳の水平線』『純喫茶パオーン』『ぼくたちの答え』など著書多数。