【前編】SNSで庇護を求める未成年者の誘拐、その是非が読み手の倫理観を揺さぶる! 新米女性教師と中年男性教師のバディ小説『夏鳥たちのとまり木』著者・奥田亜希子インタビュー はこちら

 本読みのプロである書評家や書店員からも絶大な信頼を置かれている実力派作家・奥田亜希子さん。近年では、性に翻弄される思春期の危うさを描いた『青春のジョーカー』や、身体の変化がもたらす感情の揺れを掬いとった『彼方のアイドル』、また、夫婦の究極の愛のかたちを提示した『求めよ、さらば』など、読み手の心を捉えて離さない小説を次々に上梓している。

 そんな、今もっとも注目の作家である奥田さんの最新作となるのが『夏鳥たちのとまり木』。母親からほったらかされて少女時代を過ごした女性教師、葉奈子の過去と現在を行き来しながら、SNSを通じた未成年者誘拐をモチーフに物語は進む。過去の傷を負ったまま生きてきた同僚の中年男性教師、溝渕の人生も縒り合わさってゆく。

 2人の前途にひと筋の希望を見いだすことのできる印象深いラストは、まさに著者の祈りが重ねられているようだ。奥田さんがこの作品にこめた想いとは?

 

【あらすじ】
 中学の国語教師、葉奈子が担任する優等生の星来せいらが無断外泊をした。これが引き金となり、葉奈子は中2の夏、ネットの掲示板で知り合ったナオのアパートに滞在した日々を思い起こす。母子家庭で母親にほったらかされて育った葉奈子に対し、「はなちゃんは大丈夫だよ」と住まいを提供してくれた男性がナオだった

 15年後の今、ナオの本当の目的を知ってしまった葉奈子。傷ついたその心に寄り添うのが、それまでほとんど接点のなかった中年男性教師、溝渕だった。溝渕自身も、心に傷を負ったまま生きていた――。

 

主人公の変化を体感できたことに驚いた

 

──親と子ども、教師と生徒、成人男性と少女など、作品では「大人と子ども」の関係から浮き彫りになることが描かれていますね。

 

奥田亜希子(以下=奥田):中学校を舞台に未成年者誘拐を書くことで、大人が果たすべき責任や大人が子どもに対して持ってしまう強い力、これは魅力も含めてですが、そういうもののことを考えずにいられませんでした。

 

──教師としての葉奈子には、物語の序盤と終盤では変化が訪れています。

 

奥田:主人公の成長を意識して書いていたわけではないのですが、話が展開するにつれて葉奈子が心を開いていくような感覚がありました。というよりも、後半を書いたことで、前半の葉奈子が抱えていた寂しさや頑なさにようやく気づきました。

 5章の途中から私自身の視界や気持ちも急激に明るくなり、息苦しさが消えて、主人公の変化を実際に体感できたことに驚きました。

 

自分が負った傷を理解し、一歩踏み出す

 

──単行本に向けて加筆修正しているうちに、作品のテーマが変わってきたそうですが。

 

奥田:「感謝と恨みは両立できるのか」という問いに「はい」と答えられる可能性を探して書き始めましたが、今作の主人公においては、やはりちょっと難しいのではないかと思い直しました。加筆修正が終わった今は、「人に認められて初めて、自分は傷ついていたのだと理解できること、および、そこから踏み出せる一歩のこと」が話の軸ではないかと考えています。

 

──最後に、タイトルにこめた想いとは?

 

奥田:夏鳥とは春から夏にかけて渡来する渡り鳥のことです。未成年者誘拐をどう書くか思案していたときに、野生の雛を拾うことは法律違反だという話を思い出し、鳥を物語の中心に据えることにしました。約1ヶ月半の長期休みがある夏は、特に家にいづらい子どもにとって、もっとも大変な季節だと思います。

 実はこの小説を書くまでは、被害者である未成年者が家庭に困難を抱えていて、未成年者のほうからアプローチがあり、なおかつ加害者が性的行為にまったく及ばなかった場合の未成年者誘拐は、それほど加害者を責められないのではないか、とぼんやり思っていました。今は、それは違うと断言できます。また、自分が心のどこかで未成年者誘拐を当事者だけの問題のように捉えていたことを、今作を通して思い知りました。

 夏の空を飛び疲れた鳥がとまらずにいられなかった木の正体に、この小説が少しでも触れられていたら嬉しいです。

 

●プロフィール
奥田亜希子(おくだ・あきこ)
1983年愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。その他の著書に『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『青春のジョーカー』『クレイジー・フォー・ラビット』『求めよ、さらば』『彼方のアイドル』などがある。