ケータイにロックをかけなかった時代。最悪の男に拾われて中身を見られてしまった。まずい。ケータイには不倫相手の上司との赤裸々なメール、頼まれて渋々撮った裸の写真が保存されている……。

 仕事のできる美人OLを追い詰める頭の切れるストーカーがトラウマレベルの恐ろしさ!

 読書中ハラハラドキドキが止まらなかった、営業部20代男性社員(独身)が、作品の魅力を渾身リポート!

 

■こんな人にオススメ

 

・リアルな恐怖にハラハラドキドキしたい人
・NOロックのケータイを落としたらどうなるか知りたい人
・頭が切れる変態にいたぶられたい人
・壊れていく日常を追体験したい人

 

■あらすじ

 

 デパートに勤める野本尚美は美人で仕事ができ、まさに順風満帆だった。いいお天気の昼休み、公園にケータイを置き忘れるまでは……。

 持ち去ったのはストーカー行為で会社をクビになった中年ホームレス。頭は切れるがモラルが欠如した男はケータイを覗き見て驚喜。そこには裸の写真、不倫相手の上司との赤裸々なメールなど知られてはいけない秘密が保存されていた。

 興奮したストーカー男はフルに悪知恵を働かせて尚美に接近する!

 

■ストーカー男、矢ヶ崎やがさき則男のりおのヤバさを知ってほしい

 

 ケータイを落とした尚美は、どうかいい人に拾われていることを願うのだが、なんとよりによって拾ったのはストーカー行為で会社をクビになり、ホームレス状態になった最悪の男・矢ヶ崎則男だった!!

 彼の目的は、落とし主である野本尚美に直接会うこと。こいつがとことんヤバいのでご紹介したい! たとえばこんなふう。

 

不気味な男、矢ヶ崎則男。

「なおみちゃん、なおみちゃん……」交差点の赤信号で立ち止まった四十七歳の中年男は、頭上に輝く春の太陽をまぶしそうに見上げたあと、なおも「なおみちゃん、なおみちゃん」とつぶやきながら、背広のポケットからシャンパンゴールドのケータイを取り出した。そして「なおみちゃん、なおみちゃん」とつぶやきながら、送話口に薄汚れた唇を押しあてた。「んー、ぶちゅー」
『ケータイをヤバイ男に拾われて』P46.P47

 

 狂気。どんだけ、名前呼ぶんだ。

 4行で6回も。なおみちゃん、なおみちゃん。周囲の目など気にも留めないで、ブツブツ名前を呼びながら、白昼堂々、ケータイにキス。終わりだ! この男は。

 しかし、この男は、ただ気味が悪いだけの人間ではないのだ。

 

頭の切れる男、矢ヶ崎則男

 ストーカー行為に関わることになると、突然、彼の頭は天才的に働きはじめる。
 もともと頭の悪い人間ではないからだ。少年時代の学校の成績も、決して悪くはない。
 それどころか良いほうから数えたほうが早かった。
『ケータイをヤバイ男に拾われて』P93

 

 なんと、頭がいい。

 ただの変態男のストーキングだと、私はこれまで、敵を侮ってしまっていた。

 

 頭の良し悪しと、性的な嗜好とは関係がない。また、頭の良し悪しと、自暴自棄になるかならないかも関係がない。それらの法則は、矢ヶ崎自身が痛感している世の真理だった。

 頭が良くても性犯罪に走り、人生の激変に正しく対応できず、投げやりな態度ですべてを失う人間もいるのだ。学業の成績で順番をつけ、それがあたかも人間性の順番でもあるかのように錯覚させる学校教育は、人間の本質を知らない者が決めたシステムだと、矢ヶ崎は自虐的に思っていた。
『ケータイをヤバイ男に拾われて』P93

 

 えっ? 意外に思慮が深いな。

 

 さっきまで、ぶちゅーっとケータイに唇を付けていた男は、学校教育のシステムにまで思考を巡らせるような人間だったのだ。突如として判明した矢ヶ崎の「頭が良い」というキャラクター。人間はギャップに弱いというが、あまりにも危険な二面性にグングン惹かれてしまう自分がいた。

 

 ヤバさを感じる場面はまだまだある。

 

 ケータイを拾い、嬉々としていた矢ヶ崎だったが、ホームレスの彼には金がない。そんな時に「電子マネーが入っているのでは?」と思い至った彼はコンビニ店員に確認することにする。その思惑は見事に的中。二万円超の予想外の臨時収入を手にすることとなる。その瞬間、彼は目を輝かせて、買い物をするのだが、嬉しさからくるものだろうか。反応がとても無邪気なのだ。

 

臨時収入を手にし、はしゃぐ矢ヶ崎則男

「残高二万七千五百二十一円ですね」
 その答えに、矢ヶ崎の目が輝いた。予想外の「臨時収入」だった。
「ちょっと待って。買う物、追加するから」
 矢ヶ崎は急いで弁当コーナーへ行き、四百八十円の特製ハンバーグ弁当を取り上げた。
 それから紙パックの野菜ジュースも添えてレジに戻ってきた。
「お弁当、温めますか」
「うん!」
 矢ヶ崎は元気に返事をした。
『ケータイをヤバイ男に拾われて』P102

 

 気持ちのいい返事である。

 思わず、彼が罪を犯していることなど忘れてしまうほどに、純粋無垢な返答に頭がついていけず、オーバーヒートしそうになる。紹介した限りでも、変態→頭がいい→無邪気ときている。情報量が多い。この先、この男はどのような姿を見せるのか。どう物語を動かしていくのか。気になって仕方がなく、ページをめくる手は一気に加速していく。それに比例するように、矢ヶ崎の行動もまたエスカレートしていくのだ。

 

■本作はただのストーカー小説ではない。

 

 ここまで、ストーカー男の多面性をお伝えしてきた。

 ケータイを拾ったヤバイ男は、ただただ気持ち悪いだけのストーカーではないということをお伝えできていれば幸いだ。それがゆえに、私はこの物語から目が離せなくなった。

 ここでご紹介したのは、全体のほんの一部にすぎない。落とし主サイドとの交渉や、必死の攻防、じわじわと相手を追い詰めるストーキング術。どんどん熱を増してエスカレートしていく、“頭の切れる”ストーカーにケータイを拾われたらどうなってしまうのか。是非、その目で見届けていただきたい。

 ケータイにロックをかけなかった時代が、いかに危険と隣あわせだったのか。高度に発達した現代の情報社会では、何でもかんでも共有が可能で、スマートフォンに保存する情報の割合はますます高くなっている。もしもあなたが、それを悪意のある者に拾われたら……?

 これは令和に生きるあなたも読んでおくべき一冊だ。