2019年3月に刊行された『ジグソーパズル48』(乾くるみ・著)が文庫化された。

 文庫刊行に際し、新たな帯と、単行本刊行時に「小説推理」2019年5月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューをご紹介する。

 

 

 

■『ジグソーパズル48』乾くるみ

 

 2012年から「小説推理」を中心に断続的に発表されてきた私立曙女子高等学院シリーズが、ついに1冊にまとまった。乾くるみの著作としては、前作『物件探偵』(新潮社)から2年ぶりの新刊ということになるが、待たされただけのことはあるハイクオリティの1冊となっている。

 生徒会のメンバー7人のうち、1人が考案してきたというカードゲーム。トランプのAから7までの7枚を銘々に配り、2人で互いの数字を当て合う。当たれば当たった方の勝ち、どちらも外れれば数字の大きい方が勝ち、というシンプルなルールだが、他にもいくつかの条件があり、勝ち続けるのは難しい。まして、それが命をかけたゲームになってしまったとあっては……。特殊ルールによるデスゲーム小説の傑作「ラッキーセブン」。

 カラオケボックスに入った2人組と3人組。互いに気づいてから合流して楽しんでいたが、そのうちの1人が持っていた1粒2000円の超高級イチゴが何者かに食べられてしまった。受付のバイト青年が防犯カメラの映像から各人の行動を整理して犯人を絞り込んでいく「GIVE ME FIVE」。

 他に、問題児ばかり集められた9組の生徒たちが、特待生を目指す仲間のために奇抜なアイデアで試験を乗り切る「マルキュー」、春休みのクラブ棟で発生した殴打事件の意外な真相「偶然の十字路」など、全7篇を収録。

 各篇のタイトルや書名でピンときた人もいるかも知れないが、これらはいずれもAKBグループの楽曲のタイトルである。高校の名前が曙女子高であるのも、AKBNの中にAKBが含まれているからだろう。

 鯨統一郎『「神田川」見立て殺人』は各篇のタイトルが昭和のヒット歌謡だったし、筒井康隆の連作『男たちのかいた絵』は各篇のタイトルがジャズのスタンダード・ナンバーであった。もちろん、本書でもAKBの歌が先にあって、その曲名に合うような事件を考えているのだから、この「趣向」は作者にとっては「制約」である。

 作者が自分に課した制約は、それだけではない。本書では、殺人事件から日常の謎まで、さまざまなタイプの事件が扱われており、似通ったテーマにトリックのものは1つもないのだ。

 つまり、本書に登場する女子高生たちは、毎回ちがったタイプの謎に直面し、全力で解決を目指す。結果として、バラエティ豊かで、かつスリリングな青春ミステリの連作に仕上がっているのである。