現役AI研究者にして、第125回直木賞候補の山之口洋氏の10年ぶりの新作『SIP 超知能警察』が発売される。
戦争と犯罪の境界がなくなった近未来において、AI捜査を武器に、敵対国家、テロリスト、犯罪者を取り締まる科学警察研究所の研究者たちの活躍を描いた意欲作だ。
「犯罪の技術的特異点」や「深層学習技術」「位相幾何学」といった研究者ならではの専門用語から、「背乗り」「エシュロン」「レーダー照射事件」など刺激的な言葉まで飛び出し、すぐ先の未来にきっと展開されるだろう犯罪捜査を活写する。
「小説推理」2021年12月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと帯デザインと共に次世代警察小説『SIP 超知能警察』をご紹介する。
■『SIP 超知能警察』山之口洋
山之口洋は、ジャンルの枠に囚われない作家である。第十回日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作『オルガニスト』からして、ミステリー・SF・青春小説など、さまざまなジャンルを融合させたファンタジーではないか。以後も、近未来SF・西洋史劇・歴史ファンタジー・青春小説など、多彩な作品を発表しているのだ。そんな作者の書いた警察小説は、当然のごとく予測不能のぶっ飛んだ内容であった。
時は、二〇二九年。警察庁科学警察研究所の情報科学第四研究所の室長・逆神崇は、AI捜査の普及と発展を提言していた。AI技術の進歩により変化する犯罪に、従来の警察の方法では、対処しきれないと確信しているからだ。そんな彼が率いる第四研究室に、警察庁の謎多き副長官・木戸亮一郎から特命が下った。調べる事件は、「日本海側各県における無戸籍児童増加の背景調査」「防衛省管内における連続不審事象の真相解明」「東北各県における『卒業アルバム』損壊多発事件の背景調査」の三つだ。
バラバラな三つの事件に、いかなる関係があるのか。個性的な部下たちと共に動き、AIによる巨大な深層学習ネットワーク“VJ”のインターフェイス用人格ジーヴスを使って、調査を進める逆神。やがて彼らの前に、驚くべき謀略が現れるのだった。
作者は東京大学工学部卒業後、人工知能関係の研究所に入所し、後に家電メーカーで研究開発に携わるという経歴を持つ。それだけにAI技術の進歩により、変化する社会への認識がリアルだ。特に、犯罪に対する考え方は、恐ろしいほどの説得力を持っている。この点をじっくりと書いた第一章を読むだけで、本書が従来の警察小説と、まったく違うことがよく分かるのだ。
もちろんストーリーの吸引力も強い。徐々に明らかになる三つの事件の真相と、それが結びついたときに浮かび上がる巨大な陰謀には驚いた。また、防衛省勤務の女性のエピソードが何度か挿入され、読者は逆神たちよりも半歩先の知識を得ている。しかし、だからこそ謎が深まり、急き立てられるようにページを捲ってしまうのだ。
さらに真相が明らかになっても、切迫した状況が続き、緊迫感が途切れることはない。第四研究所の女性と、事件の関係者のストリート・チルドレンとの交流もよかった。たくさんの注目ポイントが盛り込まれた、ニュータイプの警察小説なのである。