悠木シュンによる2019年5月刊行の『君の××を消してあげるよ』が、装いも新たに『青い棘のジレンマ』として文庫になった。文庫化にあたっての帯はこちら。

 

 文庫化にあたり、単行本刊行時に「小説推理」2019年7月号に掲載された、書評家・大矢博子さんのレビューをご紹介する。

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■『青い棘のジレンマ』悠木シュン

 

 連作に仕掛けを仕込むというデビュー以来の得意技を封印した初の長編『背中、押してやろうか?』(双葉社)で新境地を切り開いた悠木シュン。新刊『君の××を消してあげるよ』もまた、長編の青春ミステリである。

 主人公は中学三年生でバトン部に所属する小笠原幸(さち)。テレビの密着取材がバトン部に入ることになり、周囲が張り切る中、幸は退部を申し入れる。どうしてもテレビに映りたくない理由が幸にはあったのだ。

 同じバトン部で親友の志帆にだけは理由を話そう、と思いながらなかなか告げられずにいるうち、他の要因も重なって志帆との間に亀裂が入ってしまう。そんなとき、幸に声をかけてきたのは、これまで接点のなかったクラスメートの男子、海月だった。たまたま海月がカツアゲされているところを助けたせいか、妙に懐かれてしまったようなのだ。そして海月は幸に、部活の問題と志帆との仲を解決するための、ある提案をする──。

 こうしてあらすじをまとめてみると、何気ないように思えた場面まで実は緻密に計算されていたことに気づき、あらためて驚いた。たとえば、その構造だ。

 等身大の中学三年生の日々を描きつつ、まずは「なぜ幸はテレビに映りたくないのか」という謎で読者を惹きつける。だがそれを最後まで引っ張るのではなく、中盤で明らかにする。その衝撃はそれまでの「身近な青春物語」を一気に別物へと変えてしまうほどだ。そしてその過去が判明した時には、すでに次の謎が提示されている。海月はなぜ幸に執着するのか。彼の計画の目的はいったい何なのか。さまざまな場所に記された謎の落書きの意味は。

 そして何より、これらの要素がどう結びつくのか。

 個々のエピソードの吸引力が強く(各所にちりばめられた甘酸っぱくて少し痛いザ・青春エピたるや!)、つい熱中してしまうが、ひとつの謎の答えが別の謎の伏線になっていることに気づいて驚いた。速いテンポで繰り出された別々の謎がいつしかひとつにまとまる。なるほど、これは連作ミステリの手法なのだ。それをごく自然に長編の中に盛り込んでいる。実に上手い。

 前作の長編は得意技を封印した新境地だと思った。だが違った。悠木シュンは得意技の別の活かし方を見つけたのだ。同時に、構成で読ませていた作家が物語でも読ませるようになった。これは悲しくて力強いボーイ・ミーツ・ガールでもあるのだ。著者成長の一冊である。

(『君の××を消してあげるよ』より改題改稿、文庫化)