ギャビン・ライアル、桑田佳祐、ジェリー藤尾。一見何の脈絡もないこの三人の男たちを、なぜか次々思い浮かべてしまう新刊をご紹介しよう。香納諒一の『水平線がきらっきらっ』である。
目利きの読者なら、本書に先立つ『降らなきゃ晴れ』をご存じだろう。既に読んで、この続刊を待ちわびていた方も少なくないに違いない。それに続く本書は、“さすらいのキャンパー探偵”こと辰巳翔一が大活躍するシリーズの第二集にあたる。
一〇〇ページ程度の中編が三編収められているが、目次に並ぶそのタイトルをご覧いただけば、なぜ先の三人を連想したかは一目瞭然だろう。遊び心がのぞく、小説、音楽、映画の世界からのお題拝借には、作者の原典へのリスペクトも窺われる。
横浜を舞台に、元暴走族の仲間割れと思われた殺人事件の真相を、哀感と叙情をこめて描く冒頭の「深夜プラス1」。次の「TSUNAMI」では、純情なトラック野郎のプロポーズ作戦が、思いがけず震災の傷跡を暴くこととなるが、そこにユーモアと切なさが交錯する。そして表題作(おそらくは新東宝映画『地平線がぎらぎらっ』のもじり)は、急逝した女性の死が波紋となって広がり、高校時代からの仲間たちに辛く逃れがたい過去をつきつける。青春への郷愁を描きながら、「深夜プラス1」と異なった色調に仕上がっているのも面白い。
ところで読者の中には、主人公の辰巳翔一という名前にそこはかとない懐かしさを覚える向きもあるだろう。寝泊りができるワーゲンバスに乗り、各地で事件と遭遇する本作のカメラマン兼探偵は、かつて『春になれば君は』と『虚国』でジープチェロキーを乗り回していた、正義感あふれる若者のその後の姿である。紆余曲折の人生を経て齢を重ね、佇まいもキャラにも温かみが加わり、ハードボイルドからソフトボイルドになった印象もある。
シリーズは、第三集として来月刊の『見知らぬ町で』が予告されているが、その後も書き継いで行く予定があるそうだ。中編とはいえ一つ一つが充実しているし、エピソードも豊富なので、連ドラなどの映像化にも向いていると思う。アラフォーと思しき主人公の年齢からいって、辰巳役は、大森南朋、長谷川博己、佐々木蔵之介あたりが適役だと思うのだが、どうだろう? 誰が演じてもいい作品になりそうなので、ぜひ実現してもらいたい。