本誌の名物連載「二〇〇〇字ミステリー」の文庫オリジナル単行本化『4ページミステリー』の新刊が、5年ぶりに刊行された。二〇一〇年の『4ページミステリー』と一五年の『4ページミステリー 60の奇妙な事件』に続く三冊目だが、一冊目が『4ページミステリー 驚きの赤』として新装版となっているので、今回のタイトルと装丁は、それと対になる形だ。
ショートショートというと星新一のイメージが強いのでSFを連想する方が多いと思うが、もともと星新一は江戸川乱歩と同時期に活躍した探偵作家・城昌幸が洒落た掌篇ミステリをたくさん書いているのに触発されて、このスタイルを選んだという。
「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の編集長だった都筑道夫によって「ショートショート」という呼び名が日本に紹介されるまでは、ショート・ミステリーとも呼ばれていた。
ショートショートだけで五百篇を超えている都筑道夫は別格としても、多くのミステリ作家がショートショートを手がけており、結城昌治、佐野洋、笹沢左保、樹下太郎と意外な作家もショートショート集を出している。
〇四年に小説推理新人賞を受賞してデビューした蒼井上鷹は、すぐに本誌にショートショートを書き始め、今年の一月号で最終回を迎えるまで、連載は十五年に及んだ。
三冊の双葉文庫に収められた百八十二篇だけでなく、それ以前に出た四冊の短篇集にも二十二篇のショートショートが入っているので、作品総数は二百を超える。SFでは星新一、眉村卓の二人が千篇を超えているが、ミステリでは都筑道夫、阿刀田高に次いで第三位の作品数だろう。
ショートショートは平易で面白いから、簡単に書けるような気もするが、素人が一本だけ書くならともかく、一定の水準をキープして作品を量産するには、思いついたアイデアを最適な形で料理するための高い技術が必要である。
蒼井上鷹の場合、ドンデン返し、意外なオチに特化しているため、最初の3ページの中に巧みに伏線が張られている点に特長がある。
人間の底知れぬ悪意を描いた「夫婦雛」、イヤミスの極地「レシピは内緒」、ミステリ論であると同時に社会批評にもなっている異色作「『不連続殺人事件』の警察は無能だったか」など、わずか4ページに凝縮された人生模様の数々を、どうぞご堪能あれ。