小学五年生の海香は、宮古島のゲストハウス「ゆいまーる」を経営する父・勇吾と二人暮らしだ。絵を描くことが好きで、将来は東京で美術大学に通うのが夢。けれど、たぶん無理だろうなと思っている。なぜなら、経済面で父がまったく当てにならないからだ。

 勇吾はいろんな商売のアイディア(しかも総じてスットコドッコイ)を思いついては失敗する、というのを繰り返していた。ゲストハウスの収入だけでは東京に進学なんてとても考えられない。

 そんなある日、海香は学校で人気ユーチューバー・ヒカリンの話を聞く。誰でも手軽に動画を配信できるユーチューブだが、ヒカリンのようなトップレベルになると広告収入や企業とのタイアップで莫大な収入があるというのだ。

 それを知った勇吾の張り切るまいことか!「俺はユーチューバーになる!」と宣言、海香のみならずゲストハウスのヘルパーである元気と一休も巻き込み、意気揚々と動画配信を始めたのだが……。

 という導入部と『お父さんはユーチューバー』というタイトルから、なるほど、流行り物を取り入れたライトなコメディだな、と思う人が多いのではないだろうか(私もそうだった)。だが、そう思った人こそ、本書をお読みいただきたい。意外な展開が待っているから。

 もちろん流行り物ならではの描写も多い。PVを稼ぐため動画がどんどん過激になっていく様子は現在の「受けたもん勝ち」の状況への批判になっているし、いいときは持ち上げ、何かあれば叩くという描写にも社会の縮図が見て取れる。明らかに失敗しそうな勇吾をなぜ止めないのかと訊かれた元気が、何もしないより、失敗して学ぶことの方が大きいと語るくだりも胸に響く。

 だが本書の最大の読みどころにして「意外な展開」は、これが家族の物語であるということだ。

 ポイントは、時折差し込まれる勇吾の回想。十二年前、勇吾は東京にいた。そこで勇吾に何があったか、それが現在の状況にどうつながっているのか。全体の構図が見えたとき、思わず天を仰いだ。まさかこんなに胸を熱くする「真相」が用意されていたとは。しかも、前述の現代社会への風刺的な場面に別の意味があったことが知らされるに至っては、やられたという他ない。

 ストレートでテンポのいい文章は読みやすさも抜群。動画もいいが、やっぱり小説はいいぞ。