拙著『トラベル・ミステリー聖地巡礼』は、旅行が趣味だという方、あるいは鉄道好きの御仁、いやそもそも本誌「小説推理」を手に取るくらい熱心な推理小説(ミステリー)ファンであるあなたに贈る、僕のライフワークのひとつです。
本誌読者のなかには、きっと欠かさず読んでくれた方もいるはず。『トラベル・ミステリー聖地巡礼』は、本誌二〇一六年一月号から今年(二〇一九年)三月号まで二十回にわたり隔月連載した『トラベル・ミステリー探訪』をまとめた一冊です。同連載の売りは、名作トラベル・ミステリーの事件現場を実際に鉄道旅行し、そのうえで作品の見どころをネタバレなしで解説する、というものでした。いわゆる〈トラベル・ミステリー〉ブームを牽引した西村京太郎さんの『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』の舞台、山陽本線の三石(みついし)駅(岡山県)を皮切りに、鮎川哲也さんの『死のある風景』の内灘砂丘(石川県)、松本清張さんの『時間の習俗』の和布刈(めかり)神社(福岡県)などなど、北は北海道から南は九州宮崎まで日本国じゅうを駆け巡りました。紙上の事件現場に、本当に足を運んでこそ初めて視えてくる〈風景〉がそこにはあり、名作の〈魅力の真相〉に迫ることができたと自負しています。
連載時からタイトルを改めた『トラベル・ミステリー聖地巡礼』は、すでに出来上がっている分をただまとめただけではありません。書籍化に際し、「ミステリマガジン」二〇一三年十二月号の“朝ドラ『あまちゃん』特集”に寄せた「鉄道で行くローカル・ミステリー・ツアー」を収録し(『トラベル・ミステリー探訪』なる新連載企画を当時の「小説推理」編集長に売り込むのに力を貸してくれた)、さらに本邦〈トラベル・ミステリー〉ジャンルの歴史を大づかみにした小論「トラベル・ミステリーの定義と過去未来」を書き下ろしています(こちら、里程標的作品リストも作成し、ブックガイドとしての充実に努めた)。
――ところで。僕は二十一歳からミステリー業界に交ぜてもらって、書評なんぞ書き続けること足掛け二十六年になります。が、他人様が発表したものでない本の紹介の筆を執るのは、今回三冊目の単独著書にして初めての経験です。こういう場合、謙譲の精神を発揮するのが“いい大人”に決まっているのは重々承知。ですが……鉄道紀行であると同時に、ちょっと真面目にトラベル・ミステリーなるものに触れることができる、我ながら悪くない出来のこの本を断然オススメします!