二〇一七年から一九年まで丸二年にわたって本誌に連載された赤川次郎の新作サスペンスが単行本化された。赤川次郎は一九七六年に「幽霊列車」でデビューしており、それから四十年以上にわたってミステリ界の第一線で活躍し続けているのは驚異的である。
文具メーカー「ABカルチャー」に勤務する滝田奈々子は三十六歳。その夜、カレー屋に急いでいた奈々子は、高級そうなスーツで身を固めた若い男性に声をかけられる。問答の結果、男性の探していた会社がABカルチャーだと分かって驚く奈々子。渡された名刺には「P商事 取締役 湯川昭也」とあった。
早朝、実家の母親からの電話で起こされた奈々子は、十一歳年の離れた妹の久美が駆け落ちしたと聞かされて仰天する。だが、その日のうちに奈々子のマンションに現れた久美によると、駆け落ちではなく単なる家出であるらしい。仕事が見つかるまでということで、久美は奈々子の部屋に居候することになる。
久美に連れられてショッピングに出かけた奈々子は、レストランから女性が泣きながら駆け出す場面に遭遇する。残された個室にいるのは、湯川のようであった。帰り道、公園で水音と悲鳴を聞いた姉妹は女性が溺れているのを発見、久美が救助して女性は救急車で運ばれていく。
翌日は休日だったが、奈々子は同僚の中尾ルリから「極秘情報がある」といって電話で呼び出された。久美を連れて待ち合わせ場所のショッピングモールに向かったが、中尾ルリはそこの女子トイレで何者かに殺されていた!
久美が池から助けた女性は記憶喪失で、奈々子の名を騙る人物によって病院から連れ出される。中尾ルリの葬儀場から同僚の林が逃走する。ABカルチャーがP商事の子会社となり、湯川が責任者として着任する。久美はテレビ局のレポーターとして働き始める。課長の古田が一家心中を図り、奈々子がその元凶として名指しされる……。
タイトルこそ「ひとすじ」と付いているが、ミステリとしての謎の経糸は五本も六本も並行して走っており、しかもそれが互いに絡み合い、結びついていくのは流石としかいいようがない。
平凡な女性が巻き込まれた異常な事件を描きながら(殺し屋まで登場する!)、陰惨な雰囲気とは無縁の明るいサスペンスに仕上がっているのも赤川流だ。誰でも楽しめる職人芸の一冊。