港区芝浦で火災が発生した。重ねた自動車タイヤの中に人体を立たせて火をつけたのだ。被害者は焼かれる前に既に死亡しており、長時間冷凍された痕跡があった。そして数日後、似た手口の事件が新宿で起きて──。

 日明恩の〈武本&潮崎〉シリーズ第四弾である。前作の『やがて、警官は微睡(ねむ)る』でのホテル立てこもり事件から二年後が舞台だ。当時蒲田署の刑事だった武本は、新宿署の留置管理課に異動となり、留置場に入る者たちの管理監督に当たっていた。その新宿署に事件の捜査本部が立てられ、応援に来た警視庁の潮崎警視と再会する。

 簡単に説明しておくと、武本と潮崎は、かつては同じ警察署でバディを組んでいた。無骨で無口な武本と、推理小説の刑事に憧れるお喋り坊ちゃんの潮崎。第一作のあとで所属が分かれた後、潮崎は若きキャリアとして警視まで上り詰めたが、階級では下である武本を「センパイ」と呼んで慕い続けている──といった構図だ。

 二度目の死体燃焼事件が起きた夜、酒を飲んで暴力事件を起こしたとしてひとりの男が留置場へ連れられてきた。軽いケンカだったが、彼を見ているうちに武本は違和感を覚える。一方、潮崎は捜査の邪魔をしないよう二人の監視役をつけられ、逃走車を追う映像確認を担当することに。このふたつがもちろん絡み合ってくるわけだ。

 このシリーズの醍醐味は何と言っても魅力的な登場人物たち。『和菓子のアンソロジー』(光文社)所収の「トマどら」に登場した〈ぴょん〉こと宇佐見が、まさか潮崎と組むことになるとは! 屁理屈大王の宇佐見と口から先に生まれた潮崎の舌戦は読んでいて実に楽しい。

 だが楽しいだけではない。武本やその上司の会話もそうだが、日明恩の書く会話はときどき鞭のようにしなる。気遣いとは何か。誠実さとは何か。無知とは何か。ズバリと痛いところ突く。背筋が伸びる。そうした会話を重ねて、登場人物の関係が少しずつ変わっていく。

 事件の驚くべき展開や意外な真相など、もちろんミステリとしても読み応えは十分だし、マニアックなほどにみっちり描きこまれた警察内部の描写はさすがのお家芸だ。だが、やはりこれは人間模様を描くシリーズなのだと思う。潮崎と宇佐見に挟まれる体育会系若手女性刑事の正木、留置管理課の野心家の福山、容疑者たちにいたるまで、人と人が出会うことで起きる化学変化がとても興味深い。未読の方はぜひ第一作から!