斉木香津の「超能力者には向かない職業」シリーズの、第三弾にして完結篇が刊行された。主人公の高畠麦子巡査は、横浜みなと警察署の刑事だったが、職務中に重傷を負う。その後、刑事部から警務部警務係に異動し、現在に至っている。彼女は、人の意識に入り込み、記憶や感情を読み取る超能力の持ち主だ。ただし能力の発動は制御不能。それでも田舎の村や、元ファッション関係者の集まったマンションで起きた事件を解決してきた。

 そんな麦子が、警視庁の研修に行くことになった。どうやら彼女の能力を確かめたいようだ。警視庁の駒井から命じられ、外国から漂着したらしい、植物状態の男のもとに日参し、超能力によって分かったことがあったら教えてほしいといわれる。ところが超能力で知ったのは、ふたりの人間の記憶としか思えない、別々の事件だった。

 その一方で麦子は、連続窃盗犯の姫野綾香の話を聞くことになる。綾香が人生を踏み外す切っかけになった、幼馴染が死んだバイク事故に、何が隠されているのか。やがて謎の男の正体と、綾香の件が結びつき、意外な真実が暴かれるのだった。

 謎の男の持っている記憶は、どちらも異様である。ひとつは四方を山と海に囲まれた村の住人が次々と殺され、ついにはカタストロフを迎えるというものだ。もうひとつは、母親から“トモちゃん”と呼ばれる若者が殺人を犯している。なぜ、別々の人間の記憶らしきものを、ひとりの男が持っているのか。この謎が強烈であり、夢中になってページを捲っているうちに、バイク事故の件が加わり、さらにストーリーが錯綜。その果てに到達する真相には驚いた。鮮やかなサプライズが堪能できるのである。

 さらに先の粗筋には書かなかったが、バイク事故と同時期に起きていた、中学二年生の女子誘拐事件も、ストーリーに関係してくる。実は誘拐された寿松木(すずき)美帆は、瞬間移動の超能力の持ち主であり、その力で難を逃れていたのだ。友人の篠原遥の協力により美帆と会った麦子。だが、彼女は遥を気に入り、麦子をライバル視する。

 といった感じで麦子の私生活部分のエピソードだと思ったら、意外なところで瞬間移動の超能力が、本筋にかかわってくる。しかもシリーズで示された、麦子の超能力に対する疑問を踏まえた形でだ。こうした展開の巧さは流石というしかない。ヒロインの特殊な設定を生かし切った、魅力的な超能力ミステリーなのである。