骨董? アンティーク? 蔵から出てきた壺や掛け軸をベテラン鑑定士がためつすがめつして「いい仕事してるねえ」と唸るやつだよね……と思っていた。
いやいや、全然違ったよね! 何これチョー楽しい!
本書は、好きが高じて自らアンティークショップを立ち上げてしまったというイラストレーターのカツヤマケイコ氏が、東京を中心に各地の骨董市・アンティークマーケットを訪れた様子を描いたコミックエッセイである。
第一話の靖国神社青空骨董市の回からいきなり心を掴まれた。ここで紹介される骨董とは古美術品ではなく、「誰かが使っていた古いもの」であり、骨董市とはそんな雑多なものが集まるフリーマーケットなのだ。
最初に登場するのは使いかけのノート。このセレクトが上手い。四ページで終わったスクラップに親近感を覚え、小学校二年生の漢字練習帳を見て「私が生まれるよりはるか昔に、これを使っていた人がいるんだナ…」と思いを馳せる。骨董とは生活の証であり、誰かの生活が時を経て思わぬ場所に届く。品物に物語がある。それが骨董市の魅力なのだと、最初の数ページですっと腑に落ちた。
少し欠けたシュガーポットや中国の麻雀セット。いったい何に使うのかがわからない外国の品物。イタリアには瓶のオリーブをすくう道具なんてなものがあるのか! 手動の鉛筆削りやハンドル式の古い電話。昭和のキッチン雑貨に船の舵(!)。酒瓶のプレートをネックレスにしたり、碍子(がい し)を一輪挿しに使ったりというアイディアも楽しい。馴染みのない古道具もイラストや写真で見せてくれるのでとてもわかりやすいし、売り手の個性がキュートに描かれるのもイラストならではだろう。
何よりいいのは、著者が古道具をとても好きだという気持ちがダイレクトに伝わってくることだ。骨董市で見つけた品物は一期一会で、そこで逃すと二度と会えない。一目惚れした品物を買うかどうか悩んだり、買わなかったことをあとで後悔したり。好きなものを目の前にしたときに誰しもが抱く思いが、ここにはある。そんな思いで選ばれた品々は、骨董には興味のなかった私ですら「欲しい……」と思うことが何度もあった。品物が持つ歴史に著者の持つ愛が加わって読み手に届いた証左である。
外出自粛が解けたら一度骨董市に行ってみたい。そんな「先の楽しみ」まで与えてくれた。その日までは、本書で骨董市散歩気分を味わっておこう。