藤崎翔の最新刊『あなたに会えて困った』の書評を依頼されて、どう書いたらいいのか困った。というのも物語の最大の魅力となる部分が、ミステリーのサプライズと密接な関係にあるので、詳しく述べるわけにいかないのだ。いやもう、本当に困った。だが愚痴をこぼしても始まらない。なんとか作品の魅力を伝えるべく頑張ってみよう。
主人公の名は「善人」と書いてヨシトと読む。しかし彼は善人ではない。空き巣の罪で前科二犯。つい先ほど刑務所から出所したばかりの男である。空き巣の先輩であるスーさんを頼ったヨシト。スーさんから空き巣に最適の家があると教わり、さっそく忍び込む。だがそこは、彼の初恋の相手であるマリアの暮らす家のようだ。このことが気になったヨシトは、翌日も家の周りをうろつき、マリアと再会。マリアがヨシトの小学生時代の親友と結婚していることを知る。なぜかその後もヨシトと会いたがるマリアだが、どうやら夫との生活が上手くいっていないようだ。そして彼女の口から、不穏な言葉が漏れた……。
という現代パートの合間に、彼らの小学五年生から高校三年生にかけての、過去の場面が挿入される。貧困家庭のヨッシーと、医者の息子のタケシ。ふたりは親友だが、微妙な関係でもある。そこに引っ越してきたマリアも加わり、三人で遊ぶようになった。さまざまな思春期のエピソードを経て、ヨッシーはマリアと恋人となり、医学部を目指す。だがそこに、家庭の事情が襲いかかるのだった。
この過去のパートは、ノスタルジックである。一九九〇年代後半の風俗やエンターテインメントが大量に取り上げられており、実に懐かしい。視聴者が光過敏性発作などの症状を引き起こした“ポケモンショック”事件などが、巧みにストーリーに組み込まれており、あの時代を知る人ならば、楽しく読むことができるだろう。また本書のタイトルは、小泉今日子の『あなたに会えてよかった』の捩(もじ)りであり、この歌も効果的に使われている。
一方、現代パートでは、しだいにマリアの置かれた不幸な境遇が見えてくる。それに従い、物語の不穏な空気が強まっていくのだ。はたしてマリアは、ヨシトの“運命の女”なのか。ドキドキしながら読んでいたら、まさかの展開が待ち構えていた。これにはビックリ仰天だ。そして本書が、どういう話であるか、深く理解したのである。ミステリーの仕掛けは上々、小説としての読み味も上々。この作品に会えてよかった。