千野隆司の「おれは一万石」シリーズの第四弾が、早くも登場した。美濃今尾藩井上家の次男だが、一万石のギリギリ大名・高岡藩竹腰家に婿入りし、世子となった正紀。貧乏藩の財政を立て直そうと奔走し、時には敵対勢力と斬り合いに及んだ。その甲斐あってか、物流の中継地点として、高岡河岸が機能するようになってきた。また、妻の京も妊娠。高飛車なのは相変わらずだが、私生活も前進しそうだ。

 ところが高岡藩の本家である浜松藩井上家が、菩提寺の改築をすると言い出した。そのため高岡藩と、同じく分家である下妻藩が、それぞれ二百両を供出することになる。親交のある下妻藩井上家の世子の正広と共に、金策を講じる正紀。しかしその裏には、ふたりを世子の座から追い落とそうとする企みがあるようだ。

 一方、正紀の親友で、高積み見廻り与力の山野辺蔵之助は、材木商の高浜屋で起きた、材木倒壊事件を追っている。やがて事件は殺人にまで発展し、正紀たちの一件と、繋がりを見せるようになるのであった。

 本シリーズは、エキナカの書店でよく売れているという。だとすればメインの読者は、サラリーマンなのだろう。なるほど、納得である。前作で百二十七両の借財、今回は二百両の供出。大名が困る金額にしては、スケールが小さい。でも、だからこそ共感を呼ぶ。まるで資金繰りに苦しむ小さな会社のような高岡藩を、それでも何とかしようと奮闘する正紀を、サラリーマンなら応援したくなるのである。

 そして肝心の金策だが、ここで正紀のキャラクターが生かされる。本書の冒頭で、破落戸(ごろつき)に絡まれている脇両替商「熊井屋」房太郎を助けた正紀。金策中に、またもや破落戸に絡まれている彼を、「縁ができた以上、捨て置けない」と助けるのだ。詳しくは書かないが、これにより金策の道が開ける。情けは人の為ならずとは、このことか。主人公の善良な心が、現状を打開する展開に、胸が熱くなるのだ。

 さらに正紀と京の、夫婦関係も見逃せない。高飛車ではあるが、夫を支えようとする京。妊娠した妻を気にかけながらも、金策に熱中してしまう正紀。どこか噛み合わない夫婦に、今回、最大の試練が訪れるのだ。

 ふたりはどうなるのか。菩提寺の改築は実現するのか。蔵之助は事件を解決できるのか。すべては一ヶ月後に刊行される、シリーズ第五弾で明らかになるという。ああ、今から楽しみでならない。