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一一時三二分(爆破まであと三時間五八分)

 

 

 少年はテストを受けながら、まわりを見まわした――。

 くそみたいな奴らばっかりだ。みんな死ねばいい。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね! 全員くそだ。どうせ、みんないつか死ぬんだ。それがいつかなんてたいした問題じゃない。宇宙だって、いつかなくなるんだ。地球も月も太陽も、火星も水星も木星も、いずれすべてのものはなくなる。だったら、いったいなんでみんな一生懸命に生きるんだ?

 一生懸命に生きたって、まったく意味ないじゃん。

 小学校のとき、スポーツ少年団のコーチから死ぬほど怒鳴られたことを思いだす。そもそも自分がスポーツ少年団に入りたいといった覚えもないのに、いつのまにか入れられて、夏は野球で冬はサッカー。……うんざりだ。その日も練習に行くのがダルくて、ゲームセンターで遊んでた。あとでそのことがバレると、まるで俺がろくでもない人間かのようにコーチから説教された。このまま嘘をついて大人になったら、ひどい人間になってどこにも雇われなくなる、とか、誰にも信じてもらえなくなって最後は警察に捕まる、とか適当なことをいいやがって!

 で?

 どうでもいいじゃねえか。捕まろうが、ひどい人間になろうが、俺の勝手だろ。どうせすべてのものはなくなるんだ。好きに生きさせろよ。お前にいったいなんの関係があるってんだよ。だいたい、くだらない練習をさぼっただけで、どうして、そんなことが予測できるってんだよ。たいした才能もないくせに、偉そうに子どもに野球を教えて楽しいか? お前、プロ目指してなれなかったんだろ。敗者のくせにさ。俺に説教する前に、その、お前らのくだらない存在をなんとかしろよ。自分より下の存在にしか偉ぶれない惨めな自分のことをさ。

 ほかの奴らだってそうだ。

 みんな粛々と大人のいうことを何も考えずに聞きやがって。受験なんかどうでもいいんだよ。いい大学もいい就職先もどうだっていいんだよ。どうしてそんなことがわからないのかな。どうせ、最後は死ぬんだよ。病気になったり、事故に遭ったりしてさ。一生懸命生きたって、まったく意味はないんだよ。死ななきゃわからないのか?

 じゃあ、教えてやるよ。意味なかったねって。

 受験勉強、ご苦労様。

 安斎君、今度、アーチェリーの全国大会に出るんだっていってたよね。そのために毎日四時間も練習してるんだっけ。受験勉強しながらだから大変だってこぼしてたよな。残念。まったく無駄だったね。京本もサッカー、うまいんだって? プロに行こうかなって? 残念。どれだけ悩んでも意味なかったね。お前もここで死ぬんだよ。白井伽奈もこないだ、世界平和がどうのこうのって、偉そうにみんなの前でスピーチしてたよな。わたしたちが将来を担うんだとかなんとかご立派なこといってさ。だから、責任ある大人になりましょうとかほざいてたよな。残念。お前もここでおしまいなんだよ。

 俺が世界に教えてやるよ、人生なんか全部無意味だったってね。

 その教訓を世界に教えるためにお前ら死ねるんだから光栄に思えよ。馬鹿みたいに長生きして、死ぬとき自分の人生になんにも意味なかったって思うのはあまりにも可哀そうだからさ。それにしてもさ、最後には意味なくなるのに、どうしてみんな、あんな馬鹿みたいに一生懸命に何かするのかな。みんな馬鹿なのかな。

 どう生きるべきか、なんてどうでもいいんだよ。

 生まれてすぐに死ぬ人間だって大勢いるんだよ。たまたま健康に生まれてきたからって偉そうにすんなってんだよ。長生きして無駄に生きて嬉しいのかよ。たまたま運がよかっただけだろ。大人になっても、パチンコやったり、不倫したり、ゲームしたり、そのほかにもいろいろくだらないことしたりしてさ。人生潰していくやつばっかりなんだよ。子どもをつくって、その子どもにもまたくだらない人生を送らせたりなんかしてさ。この人はこんな立派なことして偉いねとか、こいつはこんなに悪いことしてどうしようもないねとかいってるけどさ、みんな同じなんだよ。

 偉そうにすんなよ!

 ふっ、みんな、必死になって答案を書きこんでやがる。書き間違えたのか、一生懸命消しゴムを紙に擦りつけてる奴もいる。

 いいんだよ、間違えたって。好きなように書けよ。

 せっかく勉強してきたんだろうから、模試の終わりまでは待ってやるけどよ。

 

 少年は机の横に置いた青いスクールバッグの中身のことを考えた。

 C-4。

 ここにあるのは少年の父が大量に残していったもののほんの一部だった。父は本気で日本を、いや世界を変えるつもりでいた。それだけの量を準備していた。

 少年はこれほどすがすがしい気持ちでテストを受けたことはなかった。

 ――さあ、みんなで一緒に死のうじゃないか。

 

(つづく)