剣豪小説の大家・鳥羽亮による傑作時代小説シリーズが、装いを新たに刊行開始となった。主人公は雲のように気ままな暮らしぶりから「浮雲」と綽名される一方で、凄腕の剣士でもある雲井十四郎。彼の手に汗握る剣戟や、辻斬り騒動の裏に隠されたドラマなど、時代小説の醍醐味を存分に味わえる一冊となっている。今後の展開が楽しみな新シリーズ『浮雲十四郎斬日記【一】 金尽剣法』の読みどころを、書評家・細谷正充氏がご紹介します。

 

浮雲十四郎斬日記 【一】 金尽剣法 <新装版>

 

■『浮雲十四郎斬日記【一】 金尽剣法』鳥羽亮/細谷正充[評]

 

無役の御家人にして、剣の達人。気ままに生きる雲井十四郎が、恐るべき敵に立ち向かう

 

 江戸川乱歩賞を受賞しミステリー作家としてデビューした鳥羽亮は、その後、時代小説家に転身し、数々のシリーズを上梓している。その作品群の中から、全五巻の「浮雲十四郎斬日記」シリーズが、新装版として復刊されることになった。『金尽剣法』は、その第一弾だ。剣豪小説を得意とする作者らしく、本書も迫真のチャンバラを堪能できるのである。

 

 雲井十四郎は、無役の貧乏御家人だ。五年前に父が亡くなり、母親のたつと、妹の菊江と暮らしている。馬面で茫洋とした風貌と、勝手気ままな生き方から〝浮雲〟と呼ぶ者もいる。とはいえ、金がなければ暮らしが成り立たぬ。剣の達人である十四郎は、直心影流の金子道場に頼まれ、道場破りを撃退。さらに道場主経由で、廻船問屋「辰巳屋」の主の護衛を紹介される。「辰巳屋」は江戸を騒がせる辻斬りに襲われることを懸念していたのだ。すでに雇われている金子道場の坂上と共に、護衛をしていた十四郎は、二人組の辻斬りに襲撃される。運よく退けたが、相手は凄腕である。

 

 一方、かつて十四郎と剣の同門だった、南町奉行所定廻り同心の樹陽一郎は、商家に押し入った六人の盗賊を追っていた。殺しも厭わない凶賊だ。その斬り口が、さらに続いた辻斬りの斬り口と同じようだ。盗賊の中に辻斬りがいるのか。錯綜する事件に巻き込まれた十四郎は、恐るべき敵に立ち向かう。

 

 早い段階で辻斬りのひとりの視点が入り、その目的や、盗賊との関係が明らかにされる。一方で、陽一郎や手下の岡っ引き、そして十四郎の探索が描かれる。道場のラインから辻斬りの正体をつかもうとする十四郎の動きは、いかにも鳥羽作品の主人公らしい。捕物帳のテイストも、本書の魅力になっている。

 

 しかし一番の読みどころは、やはりチャンバラである。十四郎たちと辻斬りたちの斬り合いは複数回あるが、どれも凄い迫力。自らの剣道の体験を活かしたチャンバラ・シーンは、きわめて視覚的であり、読んでいて興奮してしまう。そして金目当ての仕事が、いつの間にか命懸けになっても、果敢に騒動の渦中に身を投じる、十四郎が恰好いい。鳥羽流チャンバラ・ヒーローの活躍が、大いに堪能できるのだ。