新興宗教団体で「殺人兵器」として育てられ、凄惨な大量殺人に加担させられた子供たち。 あまりにも過酷な運命を背負わされた彼らが大人になった今、正体不明の襲撃者が牙を剥く――。 500ページ超えの大著ながら一気読み必至のミステリ『祝祭の子』が、ついに文庫化されました。

 

 単行本刊行時、この分厚い文芸ミステリに真っ先に食いついたのは、マンガ部門を率いる役員でした。「これは、本気ですごい」読み終えるなり、熱を込めて唸った本作の魅力とは何なのか。役員本人によるレビューで『祝祭の子』の読みどころをご紹介します。

 

 

祝祭の子
祝祭の子

 

マンガ編集者が唸ったミステリ小説。1ページ目から引き込まれていく面白さ。

 

 文庫化にあたり再度読んだ。やはり面白い。1ページ目からどんどん引き込まれていく。

 

 宗教法人〈褻〉で暗殺集団として育てられた5人の子供たち。そして「祝祭」という名のもとに宗教法人内での大量殺戮がその指導者と子供たちによって行われた。事件後、指導者は失踪し、その子供たちは保護され「生存者」と呼ばれ生きていく。これはその5人を中心に描かれる物語だ。

 

 成長し、自立していく中で5人の情報は常にさらされ、身バレする。どうしようもない人生に救いはあるのか。ただひたすら耐え忍ばなくてはならないのか。何とも言えない暗く悲しい辛さを抱えている。ただ、同じ暗闇を持っていても5人のキャラクターはそれぞれだ。そこがこの物語の流れを作る。「わかば」「睦巳」「彩香」「伸一」「将文」。どうしようもない人生のなかで、同じものを共有しながらも感覚や思考、行動は異なる。

 

 この小説をどう読むか。どう位置づけるのか。正直悩む。ミステリ? 群像劇? 活劇? 社会派? あるいはフィクションをもとにしたノンフィクション?

 結論は面白い! すべての要素が入っているから悩むけれど、カテゴライズする必要はない。冒頭にも書いたが、1ページ目から面白い。テンポがいい。確かに重く苦しく、圧倒的な暴力が描かれる。でもテンポよく読んでいける。それぞれのキャラクターを描く時、妙に感傷的な表現をしない(ただし彩香だけは例外で、そこが彩香のキャラクターでもある)。さらに章立てが秀逸だ。その計算された書き方によってテンポ良く、物語に引きずり込まれる。

 

 圧倒的な暴力と書いたが、その暴力描写が巧みだ。映像として浮かび上がる実践的な描写だ。作者は暴力を理解し、描き切ろうとしている。戦闘としての暴力、喧嘩としての暴力、制圧するための暴力、かわすための暴力。そして武道 (これは暴力とは言わないが)。物理的なものにとどまらず、言葉の暴力、情報の暴力と、あらゆるかたちの暴力がこの小説に描かれる。

 

 キャラクター面ではどうだろう。子供たちが背負った運命は辛く、なかなか感情移入できないだろう。でも、5人のキャラクターにはそれぞれの魅力がある。個人的には「わかば」に心は持っていかれる。彩香が、わかばの居合の形を見て「美しい」と言う。「美しい」という言葉はわかばの語彙の中に存在しただろうか? 今のわかばは、すでにその言葉の意味を受け取れる感性を身につけている。そう思うと、ほっとする。

 

 物語は、かつて5人の指導者だった石黒望が殺されたことを起因に進んでいく。なぜ5人は狙われるのか。一気に謎と共に終焉へ向かう。憎しみの連鎖は止まらない。読者は予想できない展開に引き込まれることだろう。読みどころ満載の小説である。