近年、日本では単独犯によるテロ事件が急増している。警視庁はその脅威に対応するため、2025年4月、「ローンオフェンダー(LO)」専門の捜査課を新設した。本作はこのLOを舞台に、SNSの闇に挑む刑事たちの緊迫した日々を描く警察小説である。

 

「小説推理」2025年11月号に掲載された書評家・末國善己さんのレビューで『LO 警察庁ローンオフェンダー対策室』の読みどころをご紹介する。

 

LO 警察庁ローンオフェンダー対策室
LO 警察庁ローンオフェンダー対策室

『LO 警察庁ローンオフェンダー対策室』柏木伸介  /末國善己 [評]

 

実際に対策が進むローンオフェンダーと戦う警察庁の部署を舞台にした最先端のミステリ

 

 特定の組織に属さず単独でテロを実行するローンオフェンダー(LO)は、日本でも安倍元首相銃撃事件で広く知られるようになった。LOの脅威は世界共通で、トランプ大統領を支持する活動家を銃撃したのもLOの可能性が高いようだ。把握が難しいLOに対処するため、今年に入って警視庁が専従対策課を置き、警察庁は来年度からテロに繫がる情報をAIで見つける実証実験を開始する。警察庁のLO対策室の活躍を描く本書は、最新の動向を取り込んだ作品である。

 

 警察庁の天童怜央は神奈川県警に出向していた時、独自捜査で何人もの凶悪犯罪予備軍を唆しテロを実行させた葛城亜樹子を逮捕し、警察庁へ復帰後にLO対策室の設置を提案して認められた。拠点を神奈川県相模原市にある特別合同庁舎へ移したLO対策室は、隣接する東京拘置所相模原女性支所に入れられた葛城からの情報提供をもとにテロを未然に防ぐために動く。

 

 天童が率いるLO対策室には、凄腕のクラッカーだったが犯罪発覚後にホワイトハッカーに転じた嘱託の石塚祐一、ネットに流れる情報に精通しネットを使った世論形成の闇バイトをしていた巡査の筒井史帆ら癖のあるメンバーがいる。天童がコンピュータゲームの要素を仕事に取り入れるゲーミフィケーションを使って仲の悪い石塚と筒井のやる気を引き出すところは、若手を活用するマネジメント論としても興味深い。

 

 LOが標的にするのは、政治家、企業トップ、宗教指導者といった要人だけではない。無差別大量殺傷(いわゆる通り魔)事件も、LOのテロとされる。

 

 この前提に立つ本書も各章ごとに、社会で孤立したり、抑圧されたりしているLOたちが進める犯罪計画が描かれ、それを天童たちが阻止できるのかがサスペンスを盛り上げていく。LOたちがテロに走る動機が、ネットの炎上、引きこもり、ハラスメント、貧困、介護などの身近な問題だけに社会派推理小説としても秀逸で、本書を読むとLOを生まない社会を作るには何が必要なのかを考えてしまうのではないか。