暴露系、心霊系、考察系、救済系、正義系──インターネット上で活動する動画配信者たちをテーマにした連作短編集。全5編すべてのラストにどんでん返しが待ち受ける極上の配信ミステリーが誕生した! 読み終えた後、あなたはもう配信を以前のようには見られなくなるかもしれない!?
「小説推理」2025年7月号に掲載された書評家・あわいゆき氏のレビューで『この配信は終了しました』の読みどころをご紹介します。
■『この配信は終了しました』青本雪平 /あわいゆき [評]
思わず背後を振りかえってしまうほどの恐怖を感じる「配信ミステリー」。
配信された動画を視聴するとき、画面の向こう側には同じ現実を生きている人間がいる。しかし私たちはそれを現実ではなく、どこか遠くの「コンテンツ」として受け取ってはいないだろうか? あるいは別の言い方もできる。画面を隔てた距離があるからこそ、配信者は現実をコンテンツとして私たちに振る舞えているのだと。
本作で描かれるのは、配信が終了したあとのコンテンツではない「現実」だ。動画配信が定着した令和のいま、収録作(全5編)に登場する配信者のレパートリーも多種多様だ。たとえば「暴露系」では暴露系配信者の千里が、知り合いの記者である猩野から競合相手の暴露ネタを提供され、ネタの裏取りを進める。「考察系」では経営者の湾田によって考察系配信者が集められ、自殺した配信者・寺沢の死の真相を考察していく。「正義系」では痴漢逮捕の直後に線路に飛び込んだ正義系配信者「ミツルギサバキ」の自殺の動機を追う。異なる題材を存分に活かした物語──コンテンツは一気読み必至だ。
しかし読み進めるうち、恐ろしくもなってくる。なぜならどの短編も、配信の「終了」前後で区切られていた現実とコンテンツの境界線が、徐々に溶けていくのだから。配信終了後の現実までもがコンテンツとなっていくさまに、本当に配信は終了したのだろうか、そもそも配信が終了することはあるのだろうかと背筋が凍る。
現実をコンテンツとして配信する──それはときに、配信するつもりのなかった「現実」すらもコンテンツにしてしまう。本作が描くのはカメラを向ける配信者が跋扈することで、24時間365日コンテンツ化してしまった現実だ。そしてその現実を生きる私たちは、提供されたこの物語をはたして画面の向こうにある「遠く」のものとして受け取れるのだろうか? 次にカメラを向けられ、「コンテンツ」として消費されるのはあなたかもしれない──背後を振りかえらずにはいられない名作が揃っている。