心霊スポット多き古都を管轄する鎌倉署に常駐するR特捜班は心霊現象絡みの事件を担当するチーム。特質能力を持った心優しき刑事達が死者の哀しみに目を向け、不可解な事件の真相に迫る。発売即重版となった、超常現象×本格警察小説の傑作!
「小説推理」2025年2月号に掲載された書評家・末國善己さんのレビューで『心霊特捜〈新装版〉』の読みどころをご紹介します。
■『心霊特捜〈新装版〉』今野敏 /末國善己 [評]
警察小説、伝奇小説の名手による特殊設定警察小説の待望の新装版。心霊現象が関係する怪事件に挑むR特捜班の活躍は、警察小説好きもホラー、幻想小説ファンも満足させてくれる。
今野敏は警察小説の名手だが、作家活動の初期には〈奏者水滸伝〉や〈特殊防諜班〉など伝奇小説のシリーズを発表している。著者には警察小説と伝奇小説を融合させた〈鬼龍光一〉シリーズがあり、神奈川県警本部の所属で心霊現象が絡む事件を担当するR特捜班(Rは霊の略)の活躍を描く連作短編集『心霊特捜』も、この系譜に属している。ただ亡者との戦いを描く〈鬼龍光一〉に対し、本書は幽霊に寄り添う展開が多く、テイストは異なっている。
古都ゆえに心霊スポットが少なくない鎌倉署の一室に常駐している架空のR特捜班は、現実の神奈川県警の中に違和感なく組み込まれており、R特捜班が協力する心霊事件の捜査が詳細に描かれていくので純粋な警察小説としてもクオリティが高い。R特捜班は、係長の番匠京介、刑事部との調整役の岩切大悟には霊感がないが、神道の秘術を伝承する古神道の家に生まれた数馬史郎、密教系の寺の実家で修行を積んだ鹿毛睦丸、沖縄の女性霊能者であるノロの家系で霊媒体質の比謝里美は霊能力があるとされている。
故障で死者を出し改修されたマンションのエレベーターで男が変死する「死霊のエレベーター」。捜査一課の細島が、行ったことのない場所の夢を何度も見るようになったと相談してくる「目撃者に花束を」。女子高生が殺されたが、殺害をほのめかした同級生は狐に憑かれていた。犯行時に錠前で閉ざされた蔵にいてアリバイがあった「狐憑き」。ミュージカルの稽古中に主演女優が死亡し、代役も重症を負う「ヒロイン」。悪魔召喚の儀式を行った女子高生たちが次々と事故や病気になる「魔方陣」。大木を切った後から事故が続発するT字路の調査と大悟の恋愛話がリンクしていく「人魚姫」。
6つの事件には心霊がかかわっているが、霊が禍を起こしているのか、何かを伝えようとしているのか、誰かを守っているのか判然とせず、着地点が怪談になるのか、謎が論理的に解明されるミステリになるのかも見えてこないので、スリリングな展開が楽しめる。R特捜班が、心霊現象を科学、心理学、宗教学、民俗学などを用いて解説するのも興味深く、オカルト好きは特に楽しめるのではないか。
ホラーは社会問題を増幅して恐怖を描くことがあり、本書も幽霊が現れる原因に身近な闇を置いた収録作が少なくない。ただR特捜班は、どんな幽霊も敵視せず、迷いを断ち切り成仏させる。闇より救いを重視する優しさに満ちた物語は、読者の心を癒してくれるはずだ。