最近、体重が落ちない。それどころかジワジワ太ってきた。食生活もそれほど変わっていないはずなのに、何かがおかしい――その不吉な予感、当たっている可能性大です。誰かに飛ばされた悪い念が、あなたを太らせているのかもしれません。本書では、iPadを使った生き霊チェックで大人気の「霊が視えすぎる芸人」シークエンスはやともが、生き霊太りの恐怖の実態と、心身スッキリ美しくなる手軽なお祓い方法を伝授。まさに「本当に使える」一冊です。

『憑いてる人は痩せません 生き霊「お祓い」ダイエット』の読みどころを、サイエンスライターの川口友万さんのレビューでご紹介します。

 

 

■『憑いてる人は痩せません 生き霊「お祓い」ダイエット』シークエンスはやとも  /川口友万 [評]

 

 世の中にダイエット本は溢れ、本の数だけダイエット法はある。
 糖質制限に16時間断食、脂肪とタンパク質以外とらない、いや米を食べていれば日本人は痩せるなど、諸説ありまくりの百家争鳴のなか、目を疑うような新説が登場した。

「あなたが太る理由は、生き霊に取り憑かれているから」。

 著者で霊視芸人のシークエンスはやともさんによると、生き霊は人間の余分な部分を支配するので、余分な肉を増やそうとするのだそうだ。
 あなたの腹肉がでっぷりと垂れているのは、あなたが他人からの嫉妬や憎しみを受けているから。痩せるには生き霊を祓う必要がある……と。

 さらに、はやともさんは言う。生き霊に憑かれると、体が冷える。生き霊とは、生きている人間の意思がネガティブに影響するもの。それは必ずしも他人の意思だけではなく自分の意識も含まれる。そして「生き霊太り予防は初動が肝心」で「塩、あるいは酒風呂」に入ればよく、「お酒は大人気の日本酒『獺祭だつさい』が効きます」。

 なぜ獺祭? というのは置いておいて、ご当人は生き霊お祓いダイエットによって、体重130キロから最大78キロも痩せ、一時は52キロの超スリムな体形に大変身するという驚異の減量に成功している。痩せすぎてもタチの悪い生き霊に狙われやすいため、霊視芸人として活躍する今は体重71キロまで戻したそうだが、生き霊太り時代の帯の写真を見ると別人だ。悪魔に取り憑かれた前と後ぐらい違う。

 生き霊に憑かれると、食欲に異常をきたすという。たとえばジャンクフード。ポテチもコーラも、食べ出したら止まらない。何時間もおにぎりを食べ続けることはできないのに、スナック菓子は気がつくと粉までなめる。
「買ってきた分だけ、あればあるだけ、食べてしまう」のは、なぜか? それは生き霊に「意思」を奪われるからだという。

 普通に太ったなら、最近飲み会多いなとか夜中にラーメン食べたなとか太った理由に思い当たる。しかし生き霊に取り憑かれると、この理由が思い浮かばず、「『なんでだろ? そんなに食生活は変わってないはずだけど』と首を傾げて」いたりするという。

 思い当たりませんか? 思い当たりますよねえ。

(なんで太ったんだろう?)と首を傾げながら冷蔵庫のドアを開け、のどが渇くとジュースやコーラ。それはすべて生き霊の仕業だ! なるほどわかりやすい。

 読んでいるうちに、そういえば失恋すると太るというのがあったなと思い出した。不幸せだと人間は太る。

 人間には体を戦闘モードにして緊張させる交感神経とリラックスさせる副交感神経があり、過度のストレスを受けると交感神経ばかりが働く。バランスをとるために副交感神経を働かせようと、甘いものを食べる。甘いものを食べると脳から快楽物質のセロトニンが分泌、副交感神経が活性化する。しかしストレスの原因が解決されるわけではないため、交感神経優位の状況は変わらず、甘いものを食べ続け、その結果、太る。
 こうした交感神経と副交感神経の話で太る原因を説明するよりも、不幸な女は太る、あなたが太っているのは今が不幸だからだ、というのはわかりやすい。頭にすぐに入る。

 生き霊も同じだ。愛されたいと願う気持ち、一緒にいたいと思う執着は生き霊となって自分を襲う。推しへの愛をこじらせて太ってしまうケースも多いが、それは、自分が自分ではなく、相手の中にしか存在しなくなるからだ、と、はやともさん。自分を見失った時、生き霊が自分を太らせ始める。実にわかりやすい。

 ジャンクフードがやめられない理由にしても、ああいう加工食品は食品工学の粋を集め、人間の味覚と脳を中毒にするように作られている。油分と炭水化物=糖分とうま味が一定の割合で組み合わさると、脳は中毒症状を起こすのだ。だからジャンクフードはやめられないのだが、そういう理屈よりも「生き霊のせい」のほうが心に残る。

 要は痩せることが目的であり、その心理的な原因が解決すればいいのだ。だから生き霊お祓いダイエットも、そうバカにできない。

 この本は生き霊のイメージを借りた人生ガイドだ。ほんのわずかな気持ちのつまずきをきっかけに、人は食欲に逃げ、太っていく。そんな時、どん詰まりの場所から抜け出すには、糖質制限は役に立たない。カロリーを計算しても、傷ついた心は治せない。
 生き霊に託して、うずくまった場所から立ち上がる方法を、はやともさんは語る。太った分だけ心が痛がっているのだと教える。

 本当に生き霊がいるのかどうか、ではない。生き霊に憑かれたら太るのか、でもない。健やかに前向きに生きる自分を取り戻すには、時として生き霊という業と人は闘う必要があるのだ。そのための方法が書かれた本であり、それはあなたの救いとなるだろう。

 読み終わると、サウナに行きたくなった。あ~サウナ行きたい。サウナーを増やすと思うな、この本。