時々、罪のない市井の人々に対し心の中で悪口を自然と言っていることがあります。(おじさん、ドアの前で降りないなんて邪魔すぎ) (何このダウンコート、ダサっ)……このように、人に対してネガティブな思いばかり浮かぶようになったら要注意です。風邪の引きはじめは、文字通り、邪気が心に忍び込んでいるのです。

 

 ふだんはこんなに殺伐とした心境ではなく、(あの人美人だな……)とか(あの子頭良さそう)とか、ポジティブな思いが浮かぶことも多いです。でも心を観察していると、風邪の予兆がわかります。知らない人をディスりだしたら要注意。その時にうがいとか徹底すれば予防できるのかもしれませんが……。ちなみに、個人的には、電車やイベント会場などで近くの人がマスクなしで咳をしていて、(うつったらイヤだな)と思うほどうつってしまい、むしろ博愛的に心の中で(お大事に……)といたわりの念を送るとうつりにくい気がします。反射的に迷惑だと思ってしまう心の狭い私には、なかなか難しいですが……。

 

 でも、先日は身近な人がインフルエンザになったこともあり、久しぶりに重めの風邪以上インフル未満という症状になってしまいました。誰にでも訪れる試練である風邪。症状は辛いですが、悪いことばかりではありません。風邪が治ると、デトックス感があり、以前より体が軽く感じられたりします。愛読書『風邪の効用』(野口晴哉著)にも、「風邪は自然の健康法である。風邪は治すべきものではない、経過するものである」という整体師の著者の持論が書かれていて納得させられます。

 

 風邪の要因は自分の内にもあり、「体のどこかに働かせ過ぎた処ができると風邪を引く」と、著者談。脳や腎臓、消化器官など酷使すると風邪を発症し、バランスを整え、弾力を回復させるそうです。弾力というワードに敏感な年頃なので、アンチエイジングにもならないか期待してしまいます。

 

 「風邪を引いたら、まず体中の力を抜いて体を休めてしまうのです。弛めれば汗が出てサッサと経過してしまう」と、野口先生。

 

 風邪を全うする要領は、「体を弛めること」「冷やさぬこと」「温めること」「発汗は引っ込めないこと」「安静にする」「水分を多めにとること」だと著者は語ります。うまく風邪が経過すると「蛇が脱皮したようにサッパリ」するそうです。とくに薬は飲まなくても、自然の経過に任せるのが良いみたいで、この本を読んでから風邪薬に頼らなくなりました。風邪の達人である野口先生の場合、「クシャミを二十回もするとたいてい風邪は出て行ってしまう」そうで、数時間で風邪は完了してしまうようです。「背骨で息をする、息をズーッと背骨に吸い込む」という風邪対処法も書かれていました。実際引いているときは忘れてしまうので、体に覚えさせたいです。

 

 風邪の効能はバランスを整える以外にもいろいろあって、「風邪を引くと、鈍い体が一応弾力を回復する」「上手に風邪を引くと古い病気が自然と治る」「長生きしている人は絶えず風邪を引いた」「風邪は軽いうちに何度もやると丈夫になる」「食物の味が良くなる」など。風邪が「うつれば儲けもの」とまで書かれています。

 

 たしかに儲けものかもしれません。先日、重めの風邪を引いた時、予想外の効果を実感できました。

 

 一月上旬、吉方位である箱根に行ったはずが、その後風邪を発症。その数日後、濡れた椅子に座って下半身が冷えきったことや、屋外でのイベントに出演したことなど、風邪マイレージを積み重ねていたようです。喉の痛みから始まり、熱、鼻水、咳、関節痛などに次々襲われ、「風邪の効用」を読み返す余裕もなく、ただ症状が過ぎさるのを待つだけでした。

 

 ずっと寝ていられる身分でもないので、出かけないとならない時がありました。その時、不思議なことがありました。夕方混んでいる地下鉄で、座るのは最初からあきらめていたのですが「絶対座れるようにするから大丈夫ですよ」というメッセージが頭の中で聞こえました。「守護霊様? もしくは宇宙人か天使?」と思ったのですが、普段ほとんど人が降りない駅に停まるちょっと前、目の前に座っている男性が立ち上がって席が空いたので驚きました。ありがたく座らせていただきましたが、その時感じたのは、辛い時は心の声がよく聞こえる、ということです。そしてその直感に従っていると、救いが得られたりするのです。これもひとつの風邪の効能かもしれません。全てに感謝できるってすばらしいですよね。健康な時には気付けない恩恵です……(風邪なのに大げさ)。

 

 

 

(第2回へつづく)