僻地の離島にたどり着くと、住人は何故か東西で対立。この悪しき慣習を打破するため、しがないリーマンの佑と絶世の美女・るいるいさんがロール・プレイング・ゲーム作戦を実行。主人公の佑も翻弄され続けるが、読者も翻弄されること間違いなし。本作はページを捲る手が止まらないRPG小説なのだ。

「小説推理」2021年5月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『青い孤島』の読みどころをご紹介します。

 

青い孤島

 

■『青い孤島』森沢明夫  /大矢博子[評]

 

仕事で訪れた離島でバカンス気分の主人公が陥った窮地。島を二分して対立する住民たちを仲直りさせることはできるのか? 大自然と島メシもあるよ!

 

 広告・イベント会社で働く小島佑は、活性化企画を請負った離島・小鬼ヶ島へ行くよう社長から命じられる。それは佑がずっと関わってきた企画からはずすことを意味しており、つまりは嫌がらせだった。だったら仕事は適当にしておいて、会社の金で島でのバカンスを楽しんでやろうと決意する。

 ところが着いてみると、その島は住人が川を挟んで東西に分かれ、いがみあっている状態。そこで佑は、島の居酒屋で働くために同じフェリーで来島した美女・るいるいさんと一緒に東西融和を目指して作戦を練るが……。

 前半はトラブルもなく、島を案内される佑の目を通して読者の眼前にも自然豊かな島の光景が広がるのが読みどころだ。森沢明夫の他の作品にも言えることだが、風景の描写が絶品。ただ光景を説明するのではなく、視覚(眼前に広がるカルデラとその中の田畑や建物)や触覚(口に飛び込んでくるカナブン)、味覚(辛味が旨味に変わる島のからし菜)、嗅覚(海と森の匂いが溶け合った夜風)をフルに使った描写は臨場感たっぷり。さらに島の多彩な人々を次々と登場させ、いつしか読者も旅行者になってその場にいるような気にさせてくれる。

 そうして読者をすっかり取り込んでおいてから事件を起こすのだから著者も人が悪い。隠れながら恋を育ててきたロミオとジュリエットの存在が一気に東西の対立を煽る。のみならず佑も窮地に追い込まれる事態となり、え、いったいどうなっちゃうの? というところから終盤の怒濤の展開は、辛い、楽しい、頑張れ、あれ? なんで? そういうことかー! やだ泣ける、チョー気持ちいい! と、もう翻弄されること翻弄されること。すっかり著者の掌の上で、いいように転がされてしまった。この転がされる感じは、おそらく佑の感覚そのものだ。

 そして、佑と一緒に転がされながら、いつしか物語に背中を押されていることに気づく。理由もないままに先祖伝来の「対立」を続けていた島の人々も、会社でもプライベートでも自分の居場所を作れなかった佑も、問題の存在は認識していながら行動を起こさなかったという点では同じである。それを変えたのは勇気ある一歩と誠実さだ。誠実に心を込めて一歩を踏み出せばきっと事態は変えられる。本書にはそんなエールが詰まっているのである。

 なお、著者の『キッチン風見鶏』(ハルキ文庫)と思わぬつながりもある。ファンは要チェックだ!