喜多喜久は、准教授がお好き。本当かどうかは分からないが、そういいたくなる。なぜなら、「化学探偵Mr.キュリー」「死香探偵」シリーズに続き、本書の名探偵役も准教授だからだ。令王大学で人工知能の研究をしている、若き天才研究家・名村詩朗である。

 新たな職を求めて令王大学の事務員に応募した鈴代若葉。先進人工知能研究室の名村准教授の、奇妙な試験に合格し、無事に採用される。しかし仕事の内容は変わったものであった。非論理性をあえて人工知能に組み込むことによって、人間らしさを獲得させようとしている名村。そのために、非論理性の解析の基礎データとなる具体例――『なぜ』とかんじるような謎を集めてほしいというのだ。かくして若葉は、奇妙な謎を探すことになる。

 本書には短篇四作が収録されている。第一話は、名村と若葉の紹介篇。扱う謎は、若葉の死んだ祖母が持っていた、五本の日本刀だ。ごく普通の人生を送ってきた祖母が、なぜ銘の入っていない五本の新刀を所持していたのか。若葉の調査と、名村の推理により、やがて真相が明らかになる。

 続く第二話は、令王大学の教授が、山で事故死した息子の件を名村たちに相談。息子が山に登った理由を調べる。第三話は、突然、婚約破棄を言い出した女性の謎を追ううちに、肝心の女性が失踪する。そして第四話は、十三年前の殺人事件の犯人が捕まったとき、どうして幼い息子に罪を擦りつけようとしたのかという疑問を、追究していく。

 第一話の謎の真相は平凡であり、ちょっとガッカリした。だが読み進めるうちに、作者の狙いが分かってくる。一作ごとにミステリー味が強まっているのだ。それに併せて、描かれる人の心の謎が、奥深いものになっているのである。

 なかでも秀逸なのが第三話だ。意外なストーリー展開が、大いに楽しめた。また、名村の特異なキャラクター設定(読んでのお楽しみ)があるからこそ、失踪の真相が際立つ。これが本書のベストだ。

 一方、第四話では、殺人事件の真相に、工夫が凝らされている。大手製薬会社の研究員だったという作者の知識が、充分に活用されているのだ。まさに作者ならではの作品といえよう。

 さらに各話を通じて、しだいに若葉が名村に惹かれていくのも、注目ポイントになっている。これからふたりがどうなるのか知りたいので、是非ともシリーズ化してほしいのである。