柞刈湯葉の四冊目の単行本は、双葉社のWeb文芸マガジン「カラフル」に発表された連作短篇である。作者のペンネームが難し過ぎて読めないが、これは「いすかり・ゆば」であり、十二使徒のうちキリストを裏切ったとされるイスカリオテのユダの名前をもじったもの。というか、そもそもの筆名は「イスカリオテの湯葉」だったのだ。

 この名前で小説投稿サイト「カクヨム」に投稿していた『横浜駅SF』が注目を集め、第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門で大賞を受賞。同作が16年12月に《カドカワBOOKS》から刊行されて、作家デビューを果たした。

 横浜駅が百年以上にわたって常に改築工事を繰り返しているというのは、神奈川県民や鉄道マニアには有名な話だと思うが、この作品は、とうとう本州の99%までが横浜駅となってしまった世界を舞台にした冒険SFである。独創的な設定、奔流のようなアイデア、練達の書き振りが高く評価され、新人の第一作としては異例ながら、翌年の第三十八回日本SF大賞の候補にまで選ばれている。

 第二作『重力アルケミック』(星海社FICTIONS)は地球が膨張し続け、東京・大阪間が五千キロになった世界で重力に逆らって空を飛ぶ飛行機の製作に挑む大学生を描いた青春SF。第三作『横浜駅SF 全国版』(カドカワBOOKS)は、タイトルの通りデビュー作の続編に当たる。

 快調なペースで新作を世に問う著者が新たに放つ本書は近未来の職安、すなわち職業安定所を舞台にしたユーモアSFである。この世界では厚生福祉省から生活に必要な最低限のお金が「生活基本金」として支給されるようになっており、全人口の99%の人は仕事に就いていない「消費者」である。そんな社会で、残り1%の「生産者」を希望する変わり者はどんな人なのか、そして職業のあり方は、どう変わっているのか。副所長の大塚と語り手を務める職員の目黒のコンビも、このご時世にわざわざ職安など開いているのだから、相当の変わり者なのだ。

 ここには、革命的な技術革新は登場しない。あくまで現在のテクノロジーが、ほんの少しだけ進歩した世界が描かれている。かつてSFは「空想科学小説」と呼ばれたことがあるが、本書は未来を空想する楽しさに満ちあふれている。そして、良質のSFが常にそうであるように、未来について考えることは、いつだって現在について考えることと表裏一体なのだ。