小説推理新人賞受賞作を含む『スマドロ』(『スマート泥棒』と改題・双葉文庫)でデビューして以降、『トライアンフ』(双葉社)、『花葬』(小学館)と、連作という形式の中に仕掛けを潜ませてきた悠木シュンの新作は、著者初挑戦となる長編だ。
舞台は、とある中学の二年生の教室。一年近くも不登校を続けていた女子生徒、久佐井繭子が久しぶりに登校してきた。彼女は間をおかず、いじめの対象となる。ところが彼女は、持ち物が汚されようが隠されようがどこ吹く風。その様子を見ていた「ぼく」こと平一平は、なぜ抵抗しないのかと気になって仕方がない。
ところがそんな時、小学校時代の同級生だった龍和彦が交通事故で死亡、自殺の噂が広がる。そしてその現場にいた一平の親友・智也の様子がおかしくなり、ついに学校へ来なくなった。そしてなぜか次にいじめの標的になったのは一平だった……。
これまでの連作では各話に事件があり、テンポの早い展開で読者を引っ張ってきたが、今回は何が起こっているのかもはっきりしないまま、じわじわと不穏な空気が増して行くのが印象的だ。物語の序盤で鳩が殺されたという事件が語られるが、それ以降は教室内のいじめの連鎖、自殺を噂される交通事故、親友の不登校など、何がどうつながっているのかわからない。まるで体のあちこちに突発的かつ不規則に症状の出る病気のようで、どうにも正体がつかめないのである。それが怖い。
さらに不気味さを加速させているのが、まるで心をどこかに置いてきたかのような人物描写だ。クラスメートたちの罪悪感の欠如も恐ろしいが、被害者である繭子は何かの策略をうちに秘めているようだし、一平もいじめは辛いと言いながら、どこか淡々と事態を分析している。そのせいか、いじめ小説につきものの身を切られるような悲惨さは薄い。代わりに、今に何かが起きる、という嫌な予感だけがひたひたと押し寄せてくる。
もちろん最後にはすべてが一本の線でつながることになるし、それが読者をもう一度プロローグへ誘うという巧緻な構成にも唸ったが、本書の最大の特徴は、この不気味さを自在に操る悠木シュンの筆致だ。連作の仕掛けという得意技を封印し、感情描写を最低限に抑え、何が起きているのか、何が起きるのかで読者を惹きつける。こんなものも書けるのかと驚かされた。新境地である。