ワールドカップやイングランド・プレミアリーグで存在感を見せつけ世界を驚かせたサッカー日本代表・三笘薫選手が、初の著書となる『VISION 夢を叶える逆算思考』を上梓した。世界で活躍する選手となるまでに、どのような努力を積み重ね、どのように取捨選択をしてきたのか──その驚くべき「思考」の軌跡が詰まった一冊だ。

 自身も幼少期からサッカー選手を目指し、Jリーグのテスト生でもあった異色の経歴の小説家・染井為人氏が本書のトークイベントに密着し、寄稿した記事「ああ、愛しきミトマ」より、レポートの一部を紹介する。

※記事全文は「小説推理」2023年9月号に掲載されています

 

■「ああ、愛しきミトマ」寄稿:染井為人

 

 2017年の天皇杯全日本サッカー大会において、当時J1に所属していたベガルタ仙台が筑波大学に負けるという、所謂ジャイアントキリングが起きた。

 試合が動いたのはキックオフから数分後だった。学生チームのひょろっとしたおぼこい男の子が自陣からドリブルを始め、迫り来る屈強なプロ選手たちを次々とかわし、そのままボールを持ち運んでシュートを叩き込んでしまったのだ。

 これが素晴らしいプレーであることはまちがいない。まちがいないのだが、このプレーを見た当時のわたしはこう思った。プロが情けねえな、と。相手が学生だと思ってナメてかかるからやられるんだ、と。

 ただ、今はベガルタ仙台の選手たちに深く同情したい。相手が三笘じゃ仕方なかったよね──。

 さて、サッカー界のニュースター三笘薫の話を深掘りする前に、少しだけわたし自身のことを書かせていただきたい。

 何を隠そう、少年の頃のわたしの夢はサッカー選手になることだった。学生時代には全国大会に出場したこともあり、二十歳の頃にはJリーグのチームにテスト生として加わったこともある。つまり真剣にプロになろうと目論んでいたのだ。

 ただ結局のところ契約には至らず、わたしはそこでスパイクを脱ぐこととなった。それからふつうの会社員となり、幾度の転職を繰り返したのちに、どういうわけか小説家になった。

「サッカー選手になるつもりが、サッカになっちゃった」

 これはわたしがよく使うギャグで、漏れなくウケる(ていると思う)。

 そんなわたしは今でもサッカーが大好きで、海外リーグもJリーグも、その動向を日々チェックしている。おそらくわたしほどサッカー事情に詳しい小説家もいないだろう。

 で、そんなわたしが今もっとも注目している選手が現在プレミアリーグのブライトンに所属する三笘薫だ。もはや虜になっていると言っても過言ではない。

 さて、三笘の初の著書『VISION 夢を叶える逆算思考』は一足先に読ませていただいた。また、本書の発売を記念したトークイベントにも、現地レポートという建前で潜り込ませてもらった。

 はたして生の三笘は実に神々しかった。単純に男前というのもあるが、なんにせよ超がつく好青年なのである。実に謙虚で、とても礼儀正しい。小学生のファンから質問を受けると、毎回「ありがとうございます」と頭を下げて回答をする。そしてその回答がまた丁寧なこと丁寧なこと。三笘薫という青年はサッカー選手としてだけではなく、一人の人間としても偉大なのだと唸った。


 ところで三笘のことをサッカーが物凄く上手い人として認識していても、いったい何が物凄く上手いのかを知らない人は結構多いのではないか。そういう人のためにわたしが一つおせっかいを焼きたい。

 それはずばり、ドリブルである。サイドからディフェンダーに一対一を仕掛け、華麗なステップを踏み、一気に加速して相手を置き去りにする。その様はスピードスケーターの如し。わたしは毎試合、感嘆してしまう。

 もちろんこれまでの歴史を振り返れば中田英寿をはじめ、海外で活躍した日本人選手は数多くいた。だが先達はみな、日本人らしくチームの規律を守り、狭いスペースでも器用にボールを扱えるという点で評価されていた。三笘のように個の力で相手をねじ伏せてしまうような選手はこれまでいなかったのだ。

 なぜ三笘だけがそんなプレーをできるのかというと、一言で言ってしまえば才能だろう。ハイスピードにも耐えうる身体能力と自由自在にボールを操るテクニック。残酷だが、三笘が魅せてくれる圧巻なプレーの数々は彼の才能が成せる技なのだ。

 

 三笘薫のプレーは、才能だけによるものなのか? 本書を読むとそれだけではなく、彼の類いまれなる〈思考〉に大きな要因があることが見えてくる。その〈思考〉とは何か。答えは書籍にてお確かめください。

「ああ、愛しきミトマ」(寄稿:染井為人)の完全版は、双葉社「小説推理」2023年9月号でお楽しみいただけます。

 

VISION 夢を叶える逆算思考
三笘薫
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染井為人(そめい・ためひと)プロフィール
1983年千葉県生まれ。芸能マネージャー、舞台プロデューサーなどを経て、2017年「悪い夏」で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、作家デビュー。著書に、WOWOWで連続テレビドラマ化された『正体』や、『海神』『鎮魂』『滅茶苦茶』などがある。今秋より、「小説推理」で連載スタート予定。