「三毛猫ホームズ」シリーズなどで人気を博す国民的作家の赤川次郎氏が、長編サスペンス『たそがれの侵入者』を刊行した。

 裕福な老婦人・あすかが友人と会話しているところに居合わせた前科持ちの泥棒・明日香は、あすかの入居する高級老人ホームに盗みに入ろうと思いつくが、事件は意外な方向に。複雑に絡み合う人間模様と謎があざやかに解決するラストは快感!

「小説推理」2022年7月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューと帯デザインと共に『たそがれの侵入者』をご紹介する。

 

富豪と泥棒 ふたりの「あすか」が出会ったら運命の歯車が動きはじめて――  高級老人ホームに窃盗目的で侵入を企む泥棒・久米は入居者のあすかに近付くが、周辺で起こる殺人事件や昔の仲間の不穏な動きによって「計画」は思わぬ方向へ!  ミステリー界の巨匠によるノンストップサスペンス長篇

 

■『たそがれの侵入者』赤川次郎  /日下三蔵:評

 

裕福な老婦人・あすかの会話を偶然聞いてしまった中年の泥棒・明日香は、あすかの入居する高級老人ホームに狙いを定めるが、事件は意外な方向に……。

 

 赤川次郎のオリジナル著書は、デビュー40年を迎えた2015年の段階で580冊に達していた。その後も年に10冊前後の新刊をコンスタントに刊行しているから、現在では650冊を超えているだろう。

 著書700冊が先か、デビュー50周年が先か、という具合で、いうまでもなく国産ミステリの歴史の中で、こんなペースで著作を出し続けている作家は他にはいない。

 先日亡くなった西村京太郎氏の著書数が、やはり約650冊なのだが、西村さんは1960年代から活動していて、赤川さんより十数年もキャリアが長い。

 昨2021年に赤川さんが刊行した著書は36冊。そのうち新作は9冊だが、ノン・シリーズの単発作品は1冊のみであった。〈吸血鬼〉シリーズ、〈三姉妹探偵団〉シリーズ、〈杉原爽香〉シリーズなど、多くのシリーズものを抱える著者だけに、著作の大半がそちらにあてられるのも無理はない。

 その点、あえて著者にシリーズものを求めない本誌の存在は貴重で、単発作品ならではの設定、アイデア、読み味を、存分に楽しむことができるのだ。2019年から21年まで約2年にわたって本誌に連載された『たそがれの侵入者』も、ユーモラスかつロマンティックなサスペンス長篇になっている。

 50代で前科持ちの泥棒・久米明日香は、高級老人ホーム「いこいの園」の入居者たちが部屋に多額の現金を置いていると知って盗みに入ろうとするが、ガードが固くてなかなかうまくいかない。さらに自分を逆恨みしているかつての子分が、脱獄して復讐の機会を狙っているという。

 老婦人の野々山あすかは金持ちだが、大学教授の息子が教え子に手を出して妊娠させてしまったと聞いて困っていた。あすかは知り合った久米明日香に相手の女性の調査を依頼するが、次々と意外な事実が判明する……。

 ふたりの「あすか」とその家族、恋人、元夫など、十数人におよぶ関係者たちが織り成す複雑な人間模様が、手際よく描かれていく。

 黄昏に差し掛かった野々山あすかの人生と、久米明日香の人生がつかの間クロスする様子をタイトルが表していたのだ、と判明するラストが心憎い。赤川次郎の驚異的な名人芸を堪能できる1冊。