このところ、南雲堂の浜中刑事シリーズや講談社タイガの『ブラッド・ブレイン』シリーズがコンスタントに刊行されていたため、年に一冊のペースで小島ミステリを読めていたが、著者の初のシリーズ探偵である海老原浩一ものは、二〇一五年の前作『呪い殺しの村』以来だから、本書が実に六年ぶりの新作ということになる。

 大学生の飛渡優哉を男手一つで育てた父の草吾は死に際に「謂名村……、殺され……」と言い残して息を引き取った。美濃焼の産地である岐阜県の謂名村は優哉たちの故郷だが、優哉が四歳のとき、母の葬儀の直後に村を出てから一度も帰郷したことはない。父もなぜか謂名村について話すのは避けているようであった。

 父の葬儀の後、優哉は思い切って謂名村を訪れるが、村人は彼が名乗ると一様に口を閉ざし、迷惑そうな顔をするのだった。住人の一人から父が村八分にあっていたと言われて唖然とする優哉だったが、伯父で開業医の文雄から、なんとか母の最期について聞くことができた。母の貴子は陶芸家の能代勲に弟子入しりて働いていたが、十六年前に工房で急死したという。

 優哉は以前、殺人事件に巻き込まれた際に知り合った探偵の海老原浩一に相談を持ちかけ、一緒に真相を探ってもらうことにする。だが、二人が再び謂名村を訪れたとき、村では恐ろしい事件が起こっていた。

 能代の工房で妻の喜和子の首吊り死体が発見されたのだ。工房の窓はすべて内側から施錠されていて、第一発見者の駐在さんもガラスを割らなければ中へ入ることができなかった。

 喜和子はかつて自殺未遂事件を起こしており、今回も単純な自殺案件かと思われたが、どうも様子がおかしい。勲の姿は自宅にもなく、喜和子の洋服箪笥にはサイズの違う同じ服が二着ずつ入っていた。これが意味するものは、果たして何か――?

 因襲に満ちた村で捜査を続ける海老原と優哉は、やがて貴子の過去に起因する驚愕の真相へとたどり着く。

 本格ミステリとしては大掛かりな密室のトリックが目を惹くが、その後に明かされる事件全体の構図が家族ならではの犯罪、家族ならではの動機であるところに、海老原浩一シリーズの真骨頂がある。ミステリという形でなければ描くことのできなかった親と子のドラマは、時代を超えて読むものの心に訴えかけてくるだろう。